シャルロッテとウェルテル

 愛しきものその名はシャルロッテ。幼いころから一緒に育ちお互い一心同体のように思っていた。昔から、私は彼女のことをどこか粗雑に扱っていたかもしれない。私は貴族の次兄に生まれたため当主になることはできなかった。その為、聖騎士になるために日々鍛錬と学習に打ち込んでいた。彼女との時間は休みの日や、同じ家庭教師の下に学んでいたために学習時の会話程度であった。彼女がどう思っていたかは知る由もないが、私は彼女を自分の体の一部のように思っていた。

 私は成長と共に剣術の才覚を発揮し始めた、学芸に関してはさっぱりだったがこのまま行けば聖騎士になることも夢ではなかった。それに対して、シャルロッテは学芸に秀でていた。彼女の書く文章は美しく、家庭教師をしていた子爵の三兄があまりの美しさに彼女の日記を知り合いの貴族に見せ合うほどだった。この頃、私たちはお互いをどこか自分の物であるという意識が強くなり過ぎていたように思う。例えば…

「ねえウェルテル」

「何だい、ロッテ」

「この間子爵の息子さんに合わせて頂いたのですが、彼ったら私の日記を見てただの       春の明星をここまで美しく形容する方を始めてみたと仰ってくださったんです」

「ほう、何故いきなりそのような話をしたんだい」

「何故だと思う?」

「わからないから聞いているんだよ、疑問文に疑問文で返すとは学に秀でているとは到底思えないね」

「あなたこそ、答えを求めるだけで自分でものを考えないなんて猿と一緒じゃないの」

「なら答えてあげよう、君はただ自分の文芸の腕を僕に誇示したいだけなんだ」

「そうお思いになって?」

 そう言うと彼女は私を試すようで、しかし私に何かを望むような表情をしていた。私はこの時、彼女がただ私に嫉妬の気持ちを駆り立てさせようとしていることが分かっていた。だからこそ、男のプライドとしてここは譲れないと思った。

「ああ。君がそう自分を誇示するなら、私も公爵令嬢オッティーリエに褒めて頂いた剣の腕をご覧に進ぜよう」

「私の日記、ご覧になったことがあって?」

「君こそ、私の剣の腕を見たことがあるのかね?」

「疑問文に疑問で返さないで」

「なら答えよう、見たことがない」

「そう」

「ああ」

「見るつもりがあって?」

「ない」

私はきっぱりと断った。その日以来彼女と会う機会が極端に減った。私は、てっきり彼女が起こっているものだと思っていた。そんな考えは、彼女が次兄の皇太子殿下と婚約するという話を聞いて水泡に帰した。そしてこの時、私は初めて自分の中の彼女の大きさを知った。失って知った、私は彼女を愛していたのである。

 彼女の家と私の家は遠い縁戚に当たる関係だった。お互いの領地は隣同士で馬車を使えば半日で行くことができた。家庭教師に習っていた時は、私の家に数日滞在することになっていた。が、彼女はある日から通うことをやめた。彼女の日記を見た次兄の皇太子殿下が彼女に興味を持ったのだ。そして、男爵家の娘だった彼女の父は自分の立場を少しでも強くするために彼女を殿下の妃にしようとした。殿下もロッテと対面し話し合ったことによって彼女の美しさに心奪われたようだ。黄金色に輝く髪に、青く透き通るような瞳、初雪のような肌。彼女の美しさを表すのに私の筆では表すことができない。兎に角、彼女があったという子爵の息子とは次兄の皇太子殿下のことであったのだ。よく考えれば、私たちの家庭教師をした子爵は娘のみで息子などいなかったのである。彼女のあの時の顔が毎夜床の中で私の瞼の裏に浮かんでくる。私はもう一度だけ彼女に会いたいと思った。最後に一言だけ掛けたいと思い、私は適当な理由つけて彼女の家の領地に入り彼女の部屋に美味いこと侵入した。彼女の侍女が私の見方をしてくれていたのである。私は、窓辺で月を見ている彼女を部屋の扉の間から視認した。そしてそっと扉から入り彼女に声をかけた、

「やあ、ロッテ」

彼女は声は出さなかったが、明らかに驚いた表情をした。

「ウェルテル、何故ここへ来たの⁉」

静かだが力ず良い声で彼女は私に問いかけた。

「君に会いたくて、最後の挨拶に」

「そう、」

静かな暗い空気が流れていた。

「月がきれいだね」

「ええ、本当。こんな美しい月もそうないわ」

 私たちは雲間から出る満月を眺めていた。そして、私は彼女の頬に優しく手を当てた。

 月影に照らされた私たちは、狼のように荒々しくぶつかり合っていた。彼女の吐息と私の吐息が交じり合い、そして少し短く途絶え少し前までの暗い空気とは打って変わって生きた空気に代わっていた。私はその夜を最後に彼女の恋人をやめた。

 数か月後、彼女は皇太子殿下と結婚した。その時の彼女の体は独りの物ではなく、二つの命を宿していた。

 私は無事に聖騎士として受勲された。そして私の槍の腕が見事に評価され、次兄の皇太子殿下を守る専任騎士として名誉ある職に任命された。私は、ロッテを守る騎士となったのである。こんなに幸せなことはない。

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GS~グランドストーリー~ イキシチニサンタマリア @ikisitinihimiirii

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