教皇の奇遇な冒険

 私は神に愛されていた。三歳の頃家族で海辺に来ていた時、父が高い高いをしているとき父が手を滑らせてしまい私は地面に向かって真っ逆さまになってしまった。しかし、その瞬間に高波が地面に落ちる私を巻き込んで海辺を覆った。高波は干からびていた浜辺の砂に潤いを運び、私を地面から父の手に運んだ。結果的に私は無傷で助かったのである。

 私は六歳の時、村を盗賊に襲われたことがあった。雨の降る不吉な日であった。私の街の人は次々と殺され両親も兄弟も私の目の前であえなく散っていった。私は追い回された、誰もいないところを目指して逃げていた。が、町から出ることもできず町一番の大木の前に来ていた。私は、大木を使って盗賊を巻こうとした。しかし、私は極度の緊張の中で転んでしまった。私は這いつくばって木から離れようとした。男が笑いながらゆっくりと私を追い詰めようとした。そんな時、天が強くきらめいた。その煌めきは一直線に私を追い詰めていた男に当たった。その光景を見た他の盗賊は、恐れをなして私の街から逃げて行ったのである。生存者は私ひとりであった。

 12歳の時私は神学校に入っていた。このまま行けば私は聖職者になることのできる道を歩んでいる。私は成績だけ見れば大した生徒ではなかったかもしれないけれど、ただ誰よりも神に愛されていた。失くした物は必ず手元に戻ってきたし、道を歩いているだけで金銭的得をすることが多々あったのである。それは、私が聖教徒的善行の精神を持ち施しを続けていたことの見返りであり、それは市民による幸福のお返しではなく、私の善行を見た神の施しを間接的に市民が与えてくださっていると私は信じているのである。元々私は神学校に入る資格を持っていなかった。が、私の生い立ちを知った神学校の理事長が私を特別に入学させてくださったのである。これも全て主のお導きである。

 私は、24歳の時神の啓示を聞く少女に出会った。私は、聖教会中央支部に所属していた。ある日、町の中で神の啓示を聞くことのできる少女がいるという噂が流れていることに気がついた。他の聖職者連中は信じようともしなかったが私はこれも主のお導きの一つかもしれないと思い捜索してみた。実際、そろそろ勇者誕生の世紀に近づいていたこともあり私は期待を胸に込めていた。出会った少女は乞食であったが敬虔な聖教徒であった。彼女は、どこか可憐ではかなく美しかった。私が代わりに育て、素晴らしい聖職者になった。神の啓示を聞き、帝国の侵略や資本主義国の策謀を予期し防ぐことができた。それによって彼女の信頼は明らかに売餡ぎ登りした。が、それをよく思わない連中がいたことも確かであった。同じ聖教徒でありながら、彼女を魔女だと言い異教徒であるとまで言い放った。そして、彼女は一度啓示を外した。帝国と資本主義国の同盟が結ばれたことを知らずに戦に挑み、領地を三分の二失った。だからと言って聖教国が世界の大国の地位を失うようなことはなかったが、その際多数の異教徒が領地に入ってしまった。それを機に外務卿になったヘンリージョン・テンプル公は責任全てを彼女に押し付け、それに乗った反主流派聖職者が彼女の火刑を申告し国民投票で可決した。彼女がなくなる際、「私は火刑になろうとも主が私を天上にお導きくださることを信じている」と言って燃え盛っていることを私は忘れることができないであろう。人が焼けるあの、花に着く異臭が私の鼻にこびり付いている。その後、反主流派の中に帝国にいる異教徒のスパイであることが発覚し、殆どが同じように火刑に処された。私はこの事件を機に幹部に抜擢された。

 48歳の私は教皇選挙に推薦されていた。私が教皇に選定された場合最年少記録になると世間でははしゃいでいたが、私は以外にも冷静であった。私が選ばれないわけがない、今回は前教皇がコイントスをして裏か表かによって教皇を決めるという神の御配慮を一番受けやすいようになっていた。神代から存在していたとされる聖なるコイン、『ユニクロ』を前教皇が神殿から地上に向かって投じた。結果私は教皇に選定された。

 96歳の私はいまだ存命であった。これも主の導きであると確信していた。最近、異教徒と無神論主義者の活動が活発になり、国内で多数の活動家が見かけられているという話をよく聞く。手始めに私は、流浪の民が潜んでいるという森を聖教軍に襲わせ、殲滅することに成功した。そこには無神論主義者が確認されていたため、今回の殲滅はかなりの成功例と言ってもよかった。暗雲立ち込めるこの時代私はただ、勇者の出現を切に望む。それまでは死ぬに死に切れんのである。

 

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