第7 話生い立ち⑦

 伯爵の速度は、目で追うことができない速さだった。通常、狼型の魔物に出会った場合生身では逃げることが不可能と言われている。馬車などがある場合は近づかれる前に全力で突っ込んで逃げるしかない、それでも逃げ切れるとは限らないと言われている。しかし、伯爵は正面突破で一体ずつ各個撃破している。魔物の首がパンパン飛んでいく、これではどちらが襲っているのかわからないほどである。

「グルルルッ」

近くから魔物声がした。振り向くと反対側の魔物が、子供である私と女のミーヤしかいないと判断して先に襲い掛かってきたのである。

「アアアア!」

私は取り乱して叫びくるっていた。が、ミーヤは落ち着いて襲ってくる魔物を眺めていた。

「ミーヤ、逃げないと!」

しかし、それでも動く様子がなかった。魔物はミーヤに向かって飛び掛かっていた。その時周りの動きがゆっくりと流れ始めた、飛び上がった魔物が少しづつミーヤに近づいていくのが分かる。ミーヤはピクリとも動かず魔物を眺めていた。ああ、これが噂の死ぬ寸前に訪れるあれか。そんなことを考えているとゆっくりと流れる空間の中に一筋の光が煌めいていた。伯爵の剣であった。伯爵はミーヤに飛びついていた魔物を蹴り飛ばすと近くにいた魔物を又も各個撃破していた。いつの間にか時間はいつも通りゆっくりと流れていた。振り向くと、反対側の魔物は全滅していた。ものの一分の出来事であった。

「ユウキ、いずれは君もこれができるようになるよ」

私に話しかけていた伯爵の体はいつもの姿に戻り始めていた。

「さあ、今夜の夕飯としよう。ミーヤ!」

そう声かけると、ミーヤは死んだ魔物をかき集めて狼を調理し始めた。

「今回はユウキにも食事をしてもらおう」

「いいんですか?」

「ああ、ぜひ味わってくれ」

ミーヤが料理した魔物料理は煮物、焼き物と脳みそがあった。脳みそはすり潰して焼いた肉にディップして食べるらしい。

「どうぞ召し上がりください」

「さあ、食べよう!先にどうぞユウキ」

「頂きます」

私は聖教式の挨拶ではなく、短い方で食への感謝を述べた。私は神に感謝したのではない、頂く食糧にあいさつしたのである。私は焼き物から頂くことにした。肉は表面がこんがりと焼けていて、何か上からかけたであろうスパイスの香りが爽やかに香っていた。がぶりとかじりつくとアツアツの肉汁が中からあふれ出てきた。

「うえ!」

結果から言うと。糞まずかった。頑張って嚙んだ分を飲み込もうと咀嚼するが、噛めば噛むほど美味しくなかった。私は必死で吞み込んだ。

「何ですか⁉食べられないですよ!」

「アッハハ!」

伯爵が面白い者でも見るように笑っていた。

「魔物の肉は不味いだろ?」

「食べ物じゃないですよ!苦いし臭いし」

「まあ我慢して食べなさい。あとでちゃんと説明するから」

そう言いながら伯爵も苦い顔でスープと焼き物を食べていた。

「色々新しいスパイスをかけてみたのですがやはりだめですか?」

「ああ、前回のスパイスの方がいいな。結局脳みそですべて台無しなんだけど」

独特の臭みの根源はどうやら脳みその香りの様だ。次にスープの方に手を出してみた。スープは焼き物よりは遥かにましであったが、やはり美味しいとは思えない。

「旦那様、本日のスープはこの間他国で召し上がったカレーにしてみたのですが如何ですか?」

「スープは今回のカレーのほうがいいな」

「今度からこちらの方向で攻めて行こうと思います」

私は食事をしながら先程の狩りのことが気になっていた。

「伯爵の力ってなぜ肉体強化ができるのですか、前の話だとすごい物知りみたいな話だったじゃないですか」

「ああ、あれはね肉体を強化したんじゃなくて体の構造を変化させたのだ。私は、世界の断りを知ったことによって自分の情報を書き換えることができるようになったんだ。毒に強くなったり、若返ることも、女性に変装することもできる」

「そんなの、神様と一緒じゃないですか!」

「ああ、その代償に色々なものを失くしもしたがね。いいか、力を得るということは何かを失うことなんだ。それだけは覚えておきなさい」

その時の伯爵の顔からは何も感情を窺えない硬い顔をしていた。その後は静かに三人で食事をし、馬車に戻って私は眠りについた。


 馬車の中寝ずらい状況でありながらも私は落ち着いた気分で眠りに着くとができた。はずだった。眠りについてからしばらくしたときに体の彼方此方から痛みが生じ始めた。

「嗚呼ンン!」

「ようやく来たな」

伯爵が私の方を面白そうに見ていた。

「何なんですか!」

「魔物の肉を食べるとなそこに含まれている物質を使って体が新しい細胞を作ろうとして最初は拒否反応を起こすんだ」

「わかってたなら、何故?」

「魔物の肉を食べると体が強くなっていく、魔物の力を多量に摂取することによって得る者もいる。得られずとも強い体を作るには欠かせないんだ」

六歳の私の体には耐えがたい痛みに感じらた。私は夜通し泣き叫び続けた。されを伯爵は眺め続けたのであった。

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