第6話 生い立ち⑥

 続いて、私が立ち向かう敵である聖教国の内政について伯爵は教えてくれたのである。

「いいか、聖教において現世で力を持つのは教皇陛下だ。表向きには国王が力を持っているが、内実教皇に逆らえるものはいない。逆らったが最後、人間であることを否定され聖教軍に殲滅させられる」

「僕の仲間が殺されたのは」

「教皇の耳に聖教国の土地に異教徒が入っているという噂が入ってな。疑わしきを殺すことにより、体面を保とうとしたわけだな」

「そんな理由で…」

「ああ」

「そんな理由で母を殺したんですか⁉」

「ああ!」

私は、人間の命が虫けらのように扱われることに驚きを隠せないでいた。私たちの中では、人間とは神のもとに平等であり、命は星よりも重いと信じられていた。伯爵に伝えると、

「それは文明人の考えだなぁ。この世に文明人がどれほどいる?教えてくれ給え」

私は答えられなかった。私の知っている文明人はみな死んでしまったからである。そんな時ふと、チャチャの顔が脳裏にちらついたのである。

「チャチャ!じゃなくて。死者の中に私と同い年の女の子はいませんでしたか?」

「急に言われてもなあ。よろしい、後で確認しておこう」

「ありがとうございます」

「何か関係のある子なのかね?」

「ええ、数少ない友達ですから」

本当のことを言ってもよかったのだが、敢えて一つくらい隠し事をもっていたかった。そうすることによって、少しだけ伯爵を出し抜いた気持ちになれたからである。

「さて、話を戻そう。まず国王だが、この国ではナンバーツーの実力を持っている。聖騎士軍を自分の近衛兵として百人従えていることによって自分の力を保持している。その下に大公、公爵、伯爵、子爵、男爵と貴族の爵位が続いていく」

「国王は一体どうして教皇に従わなければならないのですか?」

「いい質問だ。国王は教皇に戴冠してもらうことでその地位に居る。それによって、教皇がその地位を剥奪すると周りの貴族からの信頼を失ない内乱が起こってしまい自分の身が危なくなる。だから、貴族の子供たちを聖騎士に叙勲して近衛兵を作っているのだ」

「でも、明日から国王やめろって言ったって誰も言うこと聞かなければいいんじゃないの?」

「そうなんだがな、聖教徒の国だ。神の使いである聖職者の言葉をむげにできる者は例え貴族であってもいないのである」

「僕たちを襲ったのが聖騎士なの?」

「いや、あれは統一聖教会が自分たちで管理している聖教軍と言う組織だ。聖騎士とはまた別だ」

「じゃあ、貴族の伯爵はなんであの現場にいらしたんですか」

「面白そうだからだ!」

私は、この男がやはり信用のおけないものであることを再確認した。日は少しずつ傾き始め黄昏色の空を少しづつ漆黒の闇が覆い隠そうとしていた。

「さあ、そろそろ夕飯の支度と行こうか」


 今夜は開けた野原に馬車を止めその中で眠ることにして、伯爵と、ミーヤが夜の見張りを交代交代にすることにした。夕飯は、この草原に沸くという魔物の狼を伯爵が狩りそれを三人で分けることにした。馬車から降りると、あたりに感じたことのない違和感を感じ始めたのである。

「君は魔物を見たことがあるかね?」

「ありません」

「この殺気を感じるかい?」

「はい」

「ならばよろしい」

周りから狼の遠吠えが聞こえ始めた。雲間に隠れていた月から光が辺りを指し始めた。すると、自分たちの馬車を囲むように魔物がにじり寄っているのが確認された。数は数えられない。が、沢山の魔物が500メートル先からこちらを窺いながら距離を縮め続けている。

「伯爵、失礼かもしれませんが…」

「安心し給えユウキ。こう見えても武闘派なんだ」

そう言うと、伯爵の体に異変が生じ始めた。

「君には特別にもいせてあげるのだ。私の権能は『真理への探究』加護は『摂理からの導き』この二つを使うことにより、私は自分の根源を書き換えることができる。つまり肉体を変化させ思い通りの力を得ることができるのだ」

伯爵の筋肉が三倍に膨れ上がり、肌が引き締まり若さを取り戻し始めた。すると、ミーヤがどこからか一振りの剣を持ってきていた。伯爵は剣を受けると鞘から優しく抜き出した。

「この剣は、我れらがモンテクリスト伯の名を引き継ぐ際に受け取る物。この世に五本しかない原初の剣のうちの一つ」

鞘から抜かれた。剣は月の淡い光の中でひときわ光り輝いていた。

「水晶剣ジルサンダー!」

あまりに美しく、あまりに眩しい剣であった。

「因みに、これを持っていると色々な人にばれると困るから。内緒ね!」

そう言うと伯爵は、射られた矢のごとく魔物に飛び掛かっていった。

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