第5話 生い立ち⑤
「続いて、加護についてだが…」
「それなら少し解る。ブラウンは動物を食べない殺さない傷つけないを守り続けた結果、動物の加護を得た」
「そう、加護と言うものは自然、信仰、天使、精霊との関わりが深くなっている。例えば、聖教徒は魔物との出会いが極端に少なくなる。回教徒は共同体意識の強化。そう言う弱い加護もある」
「じゃあ、僕も聖教徒の加護があるんですか!」
「いや、今の君にはない。君は心の底から聖教を憎んでいる、今の君には無理だ」
「その、魔物って何ですか?」
「魔物とは、動物が亜種に進化したものを指す。権能も加護も人間のみの力ではない。すべての生物に存在する根本的力のことだ。」
「じゃあ、猿や鳥にも」
「ああ、力は存在する」
「進化ってどういうこと何ですか?」
「動物が他種の脳みそを多量に食らうこと、又他種を多量に殺すことによってその種の力を得ることができる。それを『進化』と言う。」
「ドラゴンと言う魔物を知っているかね?」
「ええ」
「ドラゴンとは、鳥類が深く関わっているんだ。鳥類が大量の動物を捕食した場合少しずつ肉体が強化されていくその末にドラゴンと言う姿を持って行った」
成程、捕食した動物の力が自分の中で生き始めるということか。なら…
「じゃあ、人を虐殺したものはどうなるんですか」
「鬼となる」
「ああ、数々の寓話に出てくる鬼とは人殺しのことを指すといっても過言ではない」
「じゃあ、」
「それはやめておきなさい、鬼となったものは意思を失う。ただの殺人道具に成り下がるぞ。人をやめるということはそういうことだ」
「はい」
「まあいい、今回の話をまとめることにしよう。さあ、ユウキ私に説明したまえ」
「この世の中には、『進化』『権能』『加護』の三つの力があります」
「ふむ」
「『進化』は動物の殺傷、捕食によって動物の力を得ること」
「それで」
「『権能』は己の肉体と精神に呼びかけ、力を発揮させること」
「最後だ」
「『加護』、信仰、精霊、天使、自然の力を譲り受けることによって得るもの」
「よろしい!今はその程度の知識で十分だ。この知識は貴族階級の中でも知られていない知識だ、他言無用だぞ」
「はい」
私達は一つ目の勉強を終え、昼食の時間とした。
私は、初めての狩りを味わっている最中だった。道中に丁度いい森があったので私たちは、今日のお昼ご飯を求めて狩りをすることになった。採取は禁止となっており、動物を狩ることのみが許されていた。私は、飛んでいる鳥を殺すために伯爵が持っている弓矢を借りた。私の母の足を貫いた弓矢である。照準を向け矢を射るが、目標には全く当たらない。私の力では弓矢を操るのには非力すぎるのである。伯爵は、二匹の鳥を射殺していた。
「あと三本で殺せなかったら今日の昼食は無しだ!」
「伯爵、僕の筋力では弓矢を扱うことができません」
「弱音を吐くな、できないからと言って努力をやめては君の本懐は果たせんぞ!」
私は、集中し神経を研ぎ澄まし目標に狙いを定めた。目標は、丸々太った鳥狙いやすい大きさで此方に気づいていないことが察せられた。その鳥めがけて私は弓を力強くひいた、その瞬間母の顔がちらついた。矢は目標から大きく逸れて行った。結局後の二本も駄目であった。
ミーヤが火をおこし食事を準備していると、鳥が三羽になっていた。
「この一匹って」
「私が殺しました」
私は、ほとほと自分の無力を痛感した。私は今まで何をして生きてきたのだろう。これで、聖教国に復讐など笑い種だ。私は、伯爵が鳥を美味しそうに食べているのを見て悔しさ増させた。この悔しさを忘れないために。伯爵たちが昼食をすますと馬車はまた目的地に向かい出発した。
馬車の中で伯爵は次に世界の地理について私に説明してくれたのである。
「いいか、今この世界には獣人国、聖教国、東の帝国、資本主義国、極東の皇国の五大文明が人間の中では力を発揮している。そして最後に、海を渡った世界の果てムー大陸、此処には魔王が住んでいる」
「魔王?本当に実在するの?」
「ああ、私も一度だけ謁見することを許されてな。単純な力ならこの世で一番だろう」
「そんな力が欲しいな」
「栄位努力し給え」
「聖教国は、どんくらい大きいんですか」
「領土だけなら五大文明の中で三番目だな。力関係でいうと、今は聖教国が一番力を保持している」
「どうして?」
「12年後に勇者と呼ばれるものが現れると予言があってな。それで、他国も下手に長期戦争や、もめ事を起こしたくないようだ」
「僕が成るよ」
「何に?」
「勇者に」
「ほう!鳥一匹殺せない君が?」
「絶対になる。そして、この世界を変えてやる」
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