第4話 生い立ち④

島に上陸するとそこには豊かな港町が広がっていた。こんな天気にもかかわらず忙しく働いている市民を見ると、この領土全体の豊かさがうかがえる気がした。

「聖教国ってどこもかしこもこんなに栄えているんですか」

「いや、領主となる貴族にもよるな。私のところは豊かなだけで、酷い所の領民は君たちより悲惨な生活をしているよ」

港から見た私たちの船は、とても巨大で、鉄でできた大きな筒が沢山ついていた。

「珍しいかね?」

「海を見たのも初めてだったんです」

「そうか、この船は聖教国一大きな船なんだ」

「あの筒は何ですか?」

「あれは砲台と言って、艦隊戦をするときに使うんだ。」

「艦隊戦?」

「まあいい、これから知っていくと良い」

「あれの名前は何ですか?」

「そうだなぁ、君を迎える記念に改名しよう」

「何で変えるんですか?」

「記念さ、何でもいぞ!」

「わかりません…」

「そうか、ならば君の母の出身国。極東から名前をもらって、ヤマトにしよう」

そう言うと自慢げに伯爵は、どこかに歩いて行った。

「ついてきなさい」

「はい」

彼の進む先に又も絢爛豪華な馬車が止まっていた。そこには、何時先回りしたのかミーヤが立っていた。

「旦那様、出立の準備はできております」

「よろしい!では、早速向かおう」

私達は馬車に乗り、島の中心部にそびえる大きな山に向かって走り始めた。

「どれほどかかるんですか?」

「三日と言うところだね」

「食料はどうするんですか?」

「君に狩りの仕方を教えようと思ってね」

「狩猟ですか?」

「私は『狩り』と言う下品な言い方の方が好きなんだが。君はどうかね?」

「何故ですか」

「狩猟とは生きていくために殺傷することを指すと私は思う」

「そうですね」

「しかし、『狩り』とは強者が弱者を一方的になぶることを指すように思うからだ!」

「私は…」

私は争いごとを好まない。今までも、狩猟は得意な大人に任せ私は採集や食事作りをしていた。が、

「強くなりたいです。母さんを殺したあいつらに負けないくらい」

「よろしい!では出発だ!」

私は強くならねばならないんだ。人を助けるのにも力が必要だ、自分を助けることのできない者は他人を助けることだってできない。私は、これから自分たちのような悲劇が二度と起こらないようにする。聖教国を滅ぼして見せる。馬車が動き始めた。私がこれから歩む道を表すように、荒れ狂う空が窓からみることができた。私は必ず復讐を果たす!


 馬車の中では、私の知らないこの世の中の摂理を教えてくれた。

「つまりだ、君のお友達のブラウン君が動物と意思を交わしていたのは『加護』によるものだと推察できよう」

「伯爵も加護をお持ち何ですか?」

「ああ、私は『権能』と『加護』の二つを持っている」

「貴族とは誰しもそのような力を持っているものなんですか?」

「いや、大体持っていないだろう。家族代々引き継いでいる家もあるが、それは公爵や王族くらいのものだよ」

「『権能』と言うのは何ですか?」

「権能というのは、長い間努力をすることや生まれ育った環境によって特殊な能力を得ることだ。つまり、『権能』とは自己から生まれる力のことで『加護』とは、外部から力を授かることだ。」

先程から聞いていると、どうやら〈つまり〉が伯爵の口癖のようだ。

「僕も、その力を使うことができるんですか」

「ああ、並大抵の努力じゃ無理だが。君はやれるかい?」

「はい!」

「よろしい!」

この、〈よろしい〉も口癖の様だ。

「具体的には何をすればいいんですか⁉」

「落ち着き給え、人の話は最後まで聞くものだ」

「すいません」

「まず、権能についてだが。これは、肉体と精神の極度の緊張によって生まれると言われている」

「つまり?」

「つまり、瞑想と肉体訓練だ!」

「でも、皆がそれをしていたわけじゃないのでしょう?」

「ああ、先人は偶発的に力を得ていた」

「なら、何を根拠にそう仰るんですか」

「私の経験則だ!」

「はあ…」

「私の権能は『真理への探究』、加護は『摂理からの導き』。まあ、平たく言えば物知りってことだ」

「それで、権能や加護のことを知ったんですか」

「ああ、調べ考えているうちに神の声が私の頭に流れえてくるのだ」

「でも、聖教徒的にはそれって…」

「私は聖教徒じゃないんだ」

「え⁉でも、じゃあ何であの場に」

「表向きは聖教徒だが、内心は多神論者だ」

「そういうものですか」

「私は、神の声によって過去と現在のあらゆるものを知ることができる」

「じゃあ、未来も」

「いや、未来は沢山ありすぎてな。私の管轄外だ」

「そうですか」

「さて、話を戻そう」

伯爵の話は、これから真に興味深い内容に入るのだが、それを記すのにこの余白では短すぎる。(つづく)

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