第3話 生い立ち③

「ウエッ‼」

男たちの鎧の隙間から剣を差し込み、切り刻んでいた。

「ふぇ?」

私は何が起こっているのかわからず、今日一日行われていることに耐えられず気絶した。


 目が覚めると私は見慣れぬ天井を目にした。とても置きな明かりがぶら下がっていて、暗い部屋を照らしていた。

「起きたかい?」

私は見知らぬ声に背筋が凍る思いをした。絢爛豪華な部屋の中、そこには豪華な服装をした老紳士と慎ましやかな服を着た中年女性が座っていた。

「どなたですか?」

私は生いっぱいの声を出したつもりだったが、かすかすの弱い声しか出なかった。

「私か?私は…」

「モンテクリスト伯でございます」

「おい!私の大事なセリフを言わんでくれ!」

「しかし、どうせまた変な名前を言って騙すつもりでしたでしょう?」

「ミーヤ、この子は私の養子にしようと思っている子だぞ!そんな子に嘘をつくとでも思うのかね?」

「はい」

「よし!お前はクビだ!」

「では、身の回りのことは新しいメイドに頼んでください」

「そりゃないよ、皆すぐやめるんだぞ!長く続いているのは、お前とヤーコフ位だぞ!」

「それよりも、この子に説明した方がいいんじゃないですか?」

「そうだな…やあ坊や。私はモンテクリスト伯。貴族で、伯爵の位を賜るものだ」

「ここはどこ…」

「ここは私の馬車だよ!何を怖がっているのだね?」

「僕の母さんは死んだ。殺されたんだ!」

「そうだ、私の国の兵士が殺した」

「なら、何で僕を-」

「私の養子にしようとて思ってね」

「ようし?」

「君を私の息子にしようと思ってね」

「は?」

「先程君は、奴隷になることを拒んだ。そういう気持ちの強い子供は好きでね、返事によっては見殺しにしようと思ったが…」

「助けてくれたんですか?」

「助ける!いい言葉だねぇ、しかし、それとは違う」

「なら何で?」

「これは私の余興だ」

「余興?」

「ああ、私には世継ぎがいなくてね。ずっと探していたんだよ」

「モンテクリスト伯の位は毎回、世継ぎを残さず自分の気に入った子供を自分の手で育て位を譲るんです」

「そう!因みにこのメイドはミーヤと言う」

「よろしくお願いします。坊ちゃま」

「君の名前は何というのだね?」

「僕の名前は、ユウキ…です」

「そうか、ユウキか。君の親は極東出身なのかい?」

「はい。」

「先程まわされて死んだ女も極東出身だったな」

私は、自分の中に溜まっていて眠っていた感情が起き上がった。

「僕のママなんだ!」

悔しさが溢れてきた。

「ふむ…」

「僕の…ママ、何だ…」

私達はそれ以降言葉を交わさなかった。私は、運命に抗うことができない自分の非力さを呪った、そして理不尽な運命自体を呪った。弱いものは殺される。それだけは忘れないように心に刻んだ。この時私は、チャチャの身がどうなっているか、考えることすらできなかった。

 そして、泣いていることもあってか疲れに負け二度目の眠りについた。



 二度目の目覚ましは、強い揺れに襲われていたためだった。慎ましく、しかし、豪華な部屋からは流石貴族の船だと思わされた。部屋のドアを開け甲板に向かって階段を上ると荒々しく黒い海が眼前に広がっていた。雨は降っていないが、不吉なほど黒い雲が空を覆っていた。

「ポセイドンが怒っているのだなぁ」

後ろから、男の声が聞こえた。

「起きたかユウキよ」

「伯爵」

「父さんと呼びなさい!」

「おはようございます。父さん」

「よろしい。丁度昼食の時間だ、君も一緒しなさい」

「はい」

そう言うと、昼食をするための場所に連れていかれた。そこは船の中腹からさらに階段を上った狭い場所だった。黒く染まった雲が敷き詰められているこんな日に、パラソルを張り、木製の綺麗な机に純白の布が浮き出ていた。

「二つの相反するものを同時に眺めることが、私の趣味なんだ」

そう言うと、小雨が降り始めた。

「そして、奇麗なものが少しづつ汚れていくこともまた甘美なものだよ」

私は用意された木製の椅子に腰を落とした。

「昼食は、サンドウィッチだ。夜のように暗いこんな日には最適だ」

「坊ちゃま、お紅茶でございます」

「ありがとう」

私たちは、荒れ狂う波を見ながら昼食をとった。美味しかった、挟まれている燻製肉からは懐かしい味がした。

「美味しいです。この燻製肉は懐かしい味がします」

「そりゃそうだ、君たちの作ったものを取ってきたんだから」

私たちは黙って食事をした。昼食が終わりお茶を飲んでいると、

「見てみ給え、あの島を!」

彼が指さす方には大きな島が見えた。

「あそこがモンテクリスト島。私の支配する領地だ!」

大きな雷がおり、激しい雨が体を打ち始めた。まるで地獄に向かっているようだ。

「私たちの上陸を歓迎しているようだ!」

彼の叫びは、雷に打ち消されすぐに消えた。

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