第2話 生い立ち②

「トゥルク、キーン!」

ブラウンは男たちが手に持った二つの首に向かって叫んでいた。私は何が起きているのか解らずに呆然としていた。母が私を抱え上げながら男たちから逃げて行くのが分かった。ブラウンが何か男たちに呼びかけているのが見える、しかし、男たちはそんなブラウンに向かって剣で切りかかっていた。

「よせ!」

ブラウンが叫ぶと同時に、木の枝が揺らめくようにブラウンは地面に倒れた。仰向けに倒れた彼の目と母に抱えられた私の目が合った。

「にげ…ろ…」

彼が最後の力を振り絞って私に呼びかけた。

「ママ!ブラウンが…ブラウンが!」

「わかってるから!」

母はとてつもない速度で男たちから逃げて行った。母の心臓が地面をけるごとに早くなっていき、その音につられ私の心臓も早くなっていた。

「あの男の人たちは誰なの!」

私はブラウンの首を切り落としている男たちを指し叫んだ。

「わかんないわよ!」

母の叫び声は恐怖に染まっていた。

「どこに向かってるの?」

「川」

「なんで?」

「私はともかく、あんたくらいなら助かるかもしれないから」

しかし、遠くから風の揺れる音がした。

「ああ!」

母は何かに躓くように倒れた。

「んあ‼」

母に抱かれていた私も投げ出される形で倒れた。母を振り返ると足に矢が刺さっていた。

「逃げて!」

母の声に先程よりも強い恐怖の色が見えた。

「おい!異教徒共お前らに神の裁きが下るときだぞ!」

男たちは先程よりもたくさんの首を持っていた。それは全て私の仲間の物であった。

「どうしてこんなことするんです⁉」

母は怒気のこもる声で叫んだ。

「我ら聖教徒の土地をお前ら異教徒がケガしているという話を聞いてな」

「私もこの子も聖教徒です!」

「ハッ!貴様らの言うことなど信用ができるか!」

「本当なんです!証拠ならあります。祈りだって捧げられます!」

そう言いながら母が胸に提げていた木製の十字架を見せていた。

「貴様ごときが十字を提げるな!」

「ンッ‼」

母がぶたれた。

必死にもがく母を男たちが吟味しているのが子供ながらにわかった。

「よし!ならばその誠意は体で証明してもらおうか」

そう言いながら、母を脱がし犯そうとしているのが分かった。

「ママに触るな!」

私は、男の足に向かって殴りつけた。

「邪魔だ!退け!」

しかし、あえなく蹴り飛ばされた。

「いや!やめて!」

そう言いながらもがく母をいたぶっていくさまに私は心底負けてしまった。私では母を助けることはできない。茫然と座りつくしていた。

「逃げて!」

母のその叫びに私はハッとした。ぶたれ、犯され、まわされていく母を横目に私は必死に逃げて行った。

「どうする?追うか?」

「あんなガキ後でどうにでもなる。それより、今はこっちを楽しもうぜ」

そんな言葉が耳に入り、この状況をどうすることもできずにただ逃げる自分が許せなかった。強くなりたい。ただ、この状況でも逃げずに母を見捨てずにいられる程の強い力が欲しかった。

 そうこうしているうちに目の前に大きな川が見えた。私は、少しの安心感を抱きながら後ろを振り向いた。先ほどまでの男たちは私を追ってきていなかった。きっと、母を蹂躙することにいそしんでいるのだろう。私はあまりの怒りに吐き気を催し川に向かって吐いてしまった。

「どうして…どうして…」

私は独りながらに言葉を漏らした。

「どうしてかっていうと、異教徒だからなんだな!」

向こうから四人程さっきとは違う男たちが現れた。

「僕も聖教徒なんです!本当です!」

「そうか」

「はい!」

「だが関係ないんだな!」

「何で…」

私は恐怖に打たれ声が出なくなっていた。

「我らは教皇陛下からこう申し使っているからだ」

そういうと男は息を吸い少し間を開けてからこう叫んだ。

「すべてを殺せ!神は全てを知りたもう!」

私はぞっとした。私が聖教徒かどうかなんて関係ないのだ。異教徒の可能性があれば関係なく殺すということなのだ。

「そんな…そんなのって…」

「そんなのってなんだよ?」

「そんなのってないよ!」

私は自分に残された全力で叫んだ。

「アハハ!」

男たちは楽しそうに笑った。

「じゃあ奴隷にでもなるか?」

私は答えられなかった。母達から奴隷になったものの悲惨さを聞いていたからである。

「カウントダウン!」

一人の男が声を上げると周りの男たちも一緒になって数え始めた。

「10!」

奴隷か死か。

「9!」

死ぬくらいなら奴隷の方がましか。

「8!」

辱めを受け一生鞭に打たれる生活だ。

「7!」

そんな生活死んでいるのと一緒じゃないか。

「6!5!4!」

カウントが早くなった。

「3!2!1!」

私は意を決した。

「奴隷になんてなるか馬鹿‼」

その瞬間四人の体が後ろから切り刻まれた。

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