GS~グランドストーリー~

イキシチニサンタマリア

第1話 生い立ち① 


 六歳だった。私の目の前で、母親がなぶられ、まわされ、殺される姿を見たのは。


***


 私は、聖教徒の母と聖職者の父の間に生まれたらしい。父は宗教的理由で私を身籠った母を捨てた。母は偶々その土地に居た流浪の民に助けられその一味に入った。その一団は、多宗教的な組織であり本来は相容れない様な者たちの集いであったが、生きるところがなく『生きていく』という一点で集約されていたような気がする。彼ら彼女らは狩猟と採集によって暮らしていた。私は夜、焚火をしながら皆で各々の哲学を話し合うさまが大好きだった。何を言っているかはさっぱりわからなかったがお互いが自分の宗教観念を語りながらその日にとった食材を食らうというのが毎日の楽しみになっていた。眠る前に毎日、母は神に祈りをささげていた。

「良い?神様はいろいろな形であたしたちに試練を与えてくださるの。でも、いざというときは必ず私たちに御加護を与えてくださるの。自然、天使、信仰、精霊、それが私たちの権能や御加護につながるのよ」

子供の私には、母が私を一人前の聖教徒にしようとしているのだなと思った。

「でも、目に見えて神様の御加護なんて見えないよ?」

「私たちが魔物に出くわさないのも、御加護のおかげよ」

そう言うと、祈りの続きを始めるのであった。

 朝目が覚めると青々とした緑の香りが鼻をくすぐり、暖かな日差しに照らされ自らの生命と自然が深く繋ぎ合わされていることを感じる。朝食は昨日とった木の実を食べその間に今日一日の計画を立てる。私たちは大体半年に一回生息地を換えていた。

「母さん、今度の移動はいつになるの?」

「んー、一週間くらいしたらかな。今度は母さんの出身の極東の方に行くんだよ」

あの日も、そんな他愛もない話をしながら私たちは保存食の燻製を作っていた。

「この間ね、ブラウンが権能を見せてくれたんだよ!木の実が見つからなかったんだけどね、ブラウンが鳥と話し始めたらすぐに木の実が見つかり始めたんだよ」

ブラウンとは三十くらいの私と同じ白い肌の男であり、動物を一切食べえない男であった。

「ブラウンはねユウキ、動物を殺生しないということを長年守ったことによって動物の『加護』を頂いたの。まあ、体が細過ぎて私より喧嘩が弱いけど」

「でも、母さん。動物を殺さないことと人間を殺さないことは一緒じゃないの?」

「違うわよ、人間と動物は神様が作ってくれた中でも役割が違うじゃない。知性があるものとない者それだけで重要性が違うわ」

母は、聖教的な観念でそう語っていた。

「そういえばユウキ、チャチャとは最近どうなの?」

「な、なんの話⁉」

チャチャとは母と同じイエローの小さな女の子で天真爛漫な感じが魅力的だった。

私は彼女を愛していた。多分、彼女も私を愛していた。

「知ってるのよ、あなたとあの子が夜な夜な二人でどこかに行ってるのを」

「ママ!」

「あれ?母さんじゃないの?」

「…気づいてたの…母さん?」

「みんな知ってるわよ!」

母さんは、何かが破裂したように笑いながら自慢げにいろいろと語ってくれた。私が一時期花の首飾りをつけていたのはチャチャが作ってくれたもので、身に着けて欲しいと言われた為だとか。お返しに動物の骨で指輪を作ったこと。その間、夜に会う時間がなかった為チャチャが不機嫌だったこと、指輪を渡して一層二人の仲が深まったこと、それを皆が微笑ましく見ていたことなど、色々教えてくれた。

「そんなことないもん!」

「良いじゃない恥ずかしがらなくても」

「恥ずかしがってないし」

「はいはい、そろそろ夕食の準備よ」

 母は燻製肉をしまい二人で集合地点へ戻った。戻ってみるとブラウンは長持ちする木の実を取ってきていた。

「なあ、ミサキ今日は何だか森がうるさいように思わないか」

ミサキとは母のことである。

「さあ、誰もがあなたのように動物の声が聞こえるわけじゃありませんよ」

「違う、今日は声が聞こえないんだ」

「じゃあ、うるさくないじゃないの」

「違うんだって…」

「ねえ、ブラウン」

「何だいユウキ?」

「ブラウンは、僕とチャチャの関係に気づいてたの?」

「ああ、もちろん。そんなことより、ミサキ…」

私は仲の良かったブラウンが知っていながら黙っていたことに静電気の様なショックを受けた。周りが少し騒がしくなってきて他の人もちらほら戻ってくる予感を感じた。未だに母とブラウンは何やら話し合いをしていた。私は早くチャチャと会いこれからのことを話し合いたかった。が…

「ここにもいたぞ!」

見知らぬ声、見知らぬ男たちがそこにはいた。彼らは高笑いをしていた。鉄の鎧を身にまといながら、私たちの仲間の首を手に持っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る