「そういえば、最近お友達とはどうなの」

「え?」

 移動の馬車の中、といっても荷馬車だが、アイジュがフウリに聞いた。

「えっとなんだっけ……チハネさんだっけ」

「どうなんだー?まさか、あれっきり会ってないとか言うなよ」

 タイトの言葉に

「ぐっ」

「おっと、これは」

「図星?」

 キイノがため息をついた。

「果たしてそれは友達というのかしら」

「ち、違うんだよ。あれから結構忙しかっただろう?そ、それでなかなか会いに行けなくて……」

 それもあるが、むしろ問題は他にあった。

 チハネと友達(?)になったはいいが、明確な約束をしたわけでもない。今度感想を、なんて言いはしたが、街中に繰り出しチハネを探し出すというのも変な感じがして、会うという行動に至るための回路が絶たれているのだ。

 見かねたアイジュがふむ、と考え、そして言った。

「頭でうじうじ考えるのがいけないんじゃない?なんでもいいから動いてみなきゃ。意外と簡単に会えるかもよ?」

「そうかなあ……人ってそんな簡単に見つけられるかな」

 白虎の寮がある街に人は何人住んでいると思っているのだろうか。

「見つけられるんじゃない?そもそも外に行かなきゃ会えるわけないし。それに彼、なかなか珍しい見た目なんでしょ」

「それは……」

 チハネはフウリとよく似た見た目をしている。それはとても珍しい真白な見た目なのだ。とはいえ、彼はフウリよりももっとずっと美しく気品のある造形をしていたが。どちらかといえば彼こそが白き虎で、フウリは雪兎である。

 正論を突きつけられすっかりしょぼくれたフウリにタイトがフォローを入れる。

「まあ実際最近は忙しかったってのもあるし。休日も調べ物とかでなんだかんだ寮にいること多かっただろ」

 さすが一番身近にいるだけある。フウリの事情というものをしっかり理解している。

「じゃあ今回のが終わったら行きなよ。ねえアイジュ」

「そうね。会いに行きなよ、はい約束」

「え、ちょっと!」

 あっという間に小指を絡まれて指切りをさせられた。それを上下にぶんぶんと振られる。

「アイジュ……俺は君みたいに友好的じゃないからうじうじしてるんだけど」

 アイジュという人間は人とのコミュニケーションに長けている。出会って五分もすれば大抵の人は友達だ。そんな彼女のペースで友達との関係を指南されてもなかなか参考にはできない。

 しかし彼女はけろっとした顔で言った。

「そう?でも大丈夫じゃない、そんな気するし」

「そんな気って……」

 するとアイジュはやや真剣な面持ちで言った。

「縁よ」

「縁?」

「そう。縁。フウリがチハネさんと街中でぱったり会った。それはもう縁なのよ。そういう縁。だって、巡り合わせだと思うでしょう。たまたま外出した先に自分とおんなじような人に出会って、そこで意気投合したっていうのはもうご縁以外に考えられないじゃない。大事にしないとダメだよ、そういうのは」

 彼女のこういうところは、ずるいとつくづく思う。

 いつも彼女は明るく、大きな輝きを見せる。それは人に大きな影響を与えて、導こうとする。

 けれど、それは決して能天気なわけではない。むしろ彼女の芯の部分はもっとずっと理論的で、何かしらの根拠に基づいてそう動いている。だからこそ人はついていくし、納得だってしてしまう。

 縁。

 チハネとあの日出会ったのは、縁か。

「……そうだね。まあ、鬼を倒しましたって自慢話が、彼に合うかはわからないけど」

 アイジュたちは小さく笑った。そしてまた、雑談が誰からともなく始まった。


 外の空気は徐々に人の湿気を含まないものになっていく。薄闇がフウリたちの行く先を漂っていた。

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