「今回の共同任務の目的は事前に連絡した通り、妖討伐が目的です。任務にあたる人員はここにいる……リンゼ長官を除いた全員です。指揮官は私、ヒサメが務めます。今日の午後から現場へ向かい、討伐が完了次第、任務は終了となります。後日報告をそれぞれの軍へ戻り行います。白虎の皆さんは事前に私が報告書を渡しますので、くれぐれも白虎の報告書に書かないように。業務連絡は以上です。何か質問は?」

 すらすらと述べるヒサメにフウリは感嘆する。見た所年は少し上のようだが、まだまだ若いだろうに、とてつもなく良くできた人である。

 ヒサメは周りを見渡し、先を続けた。

「質問が無いようなので、作戦について話します。まず、今回の討伐対象について。対象の名は『ヌの四十三番』、鬼と報告されています」

 鬼。

 肌がざわついた。

 以前、図書館の朱雀軍の資料を見たとき、その文字の多さに驚いたのである。

 鬼退治の依頼はよくある。けれど、白虎軍にはほとんど回ってこない。それは鬼退治の依頼のほぼ全てを朱雀軍が担当しているからだ。理由はただ一つだ。

 それが朱雀軍だからで、彼らが朱雀軍だからだ。

 その鬼退治の依頼にフウリたちはあたったわけである。幸か不幸かは、まだわからない。

「朱雀は鬼討伐に何度か携わっていますが、白虎の方達はいかがですか」

 アイジュが答えた。

「初めてです」

「そうですか。では、これだけは忘れないようにお願いします。私個人としては鬼に限った話では無いと思うのですが、特段という意味ですね」

 静かに、ヒサメは見つめた。整った目元が氷のように冷たく感じる。

「『彼らは人を喰らう者。彼らの目の前で私たちは、食事に過ぎない』」

 背筋が一気に冷える感覚を覚えた。言葉一つ告げられただけなのに、背中にぴったりと真剣を突きつけられているような、鋭い氷の感覚が確かにあった。

 息を呑む。冷や汗が伝った。

 彼女の言葉はただの言葉では無い。何度もそれを体感してきた人間の言葉だから、一層重く、冷たく感じる。説得力が違いすぎるのだ。

 ぱちり、とゆっくり瞬きをすると、ヒサメの瞳はいつも通りの桜色をたずさえった。

「私の言葉ではないですけれどね。今の朱雀に伝わる言葉なんです」

「そうなんですか?」

 キイノが聞くと、ヒサメは朱雀側の机の端に座った人物に目をやった。

「長官の言葉です。鬼の任務にあたるときは必ず全員聞かされるんです」

 リンゼは薄く笑いながらああ、と頷いた。手袋をはめた右手が宙に言葉を描くように動いた。

「鬼ってのは他の妖とは違う。あいつらの前じゃ、俺たちはただの食いもんで、獲物だ。常に狙われている、一瞬でも隙を見せたらすぐに腹の中。そういうことを忘れないために、朱雀には口うるさく言ってるんだよ」

 リンゼは言葉の内容からは想像できないほどに悠々としている。それは彼が朱雀軍のトップとしての器と自信を示しているようにも思えた。

「今回は朱雀だけじゃないがな。君達も覚えておくといい」

「はい。ありがとうございます」

 答えたタイトにリンゼは首を横に振った。

「礼を言われることではないね。そういうことは、生きて帰ってきたら言うもんだよ」

 それだけ言うとリンゼは腕を組み、ヒサメに目線を送った。

 作戦会議は順調に進んだ。時刻は一日の半分を過ぎ、出陣が近づく。

 肌がざわつく。

 まだまだ、戦いの前の空気は苦手だ。

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