ロードマップ

 確かな感覚だった。

 戸惑いもした。

 戦うことがどういうことなのか。失うことの辛さも生きている中で初めて知った。

 けれど、如何しようも無い達成感だったのは事実だった。

 そしてこの戦勝が、フウリたちが属する第六十一班の立ち位置を変えた。

 報告を終えた次の日、いつものように埋もれた依頼を探していた時のことである。

「そんなところでなにしてる」

 おそらく先輩の男性隊員がフウリたちを見下ろした。

「なにって…仕事探しですけど」

 タイトが答えると、先輩ははあ、とため息をついた。

 そしていたって普通の口調で言う。

「君たちは戦果をあげたんだろう?依頼が来てるよ」

「依頼?」

 先輩はそう言うと、一枚の紙を四人の前に広げた。

 そこには赤銅色で依頼状と書かれていた。

 今まで見てきた依頼の紙にはこういった文言は書かれていない。ただ依頼に必要な情報が淡々と書かれているだけだ。だからこそ、この依頼状という文字は不思議に思える。

「これは…なんですか?」

 アイジュが聞いた。

「依頼状だよ。君たちにね」

「だから、その依頼状ってなんですか」

 アイジュが加えて質問すると、先輩は顔を顰めた。そして小さくため息をつく。

「君たち、白虎軍なんでしょ。だったら自分の軍の仕事くらい覚えておきなよ、まったく。せっかく期待されてるんだから」

「仕事?そんなのわかってますよ」

「じゃ、言ってごらんよ、一つずつ。その中に答えがあるから」

 言われ、キイノが拳を握り、一本ずつ指を立てていく。

「えっと、まずは妖の退治。それから私たちの日課である被害修繕の依頼。あとは…あんまりやらないけど、寮兼事務所に併設されてる図書館の資料を管理すること。あとは…」

「あとは?」

「他の軍の応援、でしたっけ」

 キイノの答えに先輩はまあ合格、と答えた。

「正確には、他の軍の依頼に同行し共同調査、場合によっては討伐だね。応援というのもまあ、間違ってはいないけど、あくまでも二つの軍が協力してっていうことを念頭においておくこと」

「はあ…」

「返事は?」

「あ、はい!」

 そこでふとフウリは疑問を抱く。あるいは、答えかもしれない。

「えっと…ということは、この依頼状っていうのは…」

 先輩は頷いた。

「そう。この依頼状は他の軍からのものってこと。その対象に、君たちが選ばれたってわけ」

 名誉だと思えよ、と先輩は言った。

「名誉、ですか」

「ああ。他の軍との共同調査っていうのは白虎軍の中でも実力がある班とか、有望視されてる奴らだけが行けるんだ。だから、依頼状が届いたってことは遠回しに褒められてるってことだよ」

 フウリはこの依頼状の意味を知らなかった。というのも、こういった仕事の細かな事情というのは当然養成学校で教えられるはずがない。加えて新兵たちは妖退治という仕事に触れる機会も限られている。知ろうと思ってもなかなか知ることができない事情であった。

「っつーわけだからそれ、ちゃんと受理しといてくれよ」

「あ、はい!わかりました」

 すると先輩は颯爽と去っていった。彼もまた白虎の隊員だ。忙しい中わざわざ新人のために来てくれたのだろう。

 先輩が去り、フウリたちは渡された依頼状を囲んだ。

「なあ、どこからの依頼状なんだ?他の軍っていっても、三つある」

 タイトが言った。紙を受け取ったアイジュがそれに答える。

「待ってね。とりあえず全部読み上げるから」

 言うとアイジュは依頼状に書かれた文を読み上げた。

 

 依頼状 特殊警備隊白虎軍第六十一班

 妖討伐の共同調査を依頼します。依頼を受けて頂けるのならば、討伐のための装備を整えた状態で一週間後、事務所の方へお越しいただき願いたいと思います。長くなりますので詳細はその場でお伝えしますが、妖討伐ですのでそれなりの重労働になると思われます。

 もし何か問題がありましたら、当日までに連絡をお願いします。

                               朱雀軍


 その言葉を聞いた時、全員の息が一秒止まった。

 朱雀軍。それは最高の軍にして、精鋭部隊。

 そこからの依頼状である。

「これは…」

 先輩は依頼状が来るのは名誉だと言っていた。

 依頼状が来るだけでも名誉であるのに、それが最高の軍からの依頼状である。

 とてつもない名誉である。

 心が沸き立つのを感じた。内側からぼこぼこと今にも吹きこぼれそうなほどに血が巡る。

 瞬間、アイジュが隣にいたタイトに紙を渡し、パン、と手を叩いた。

 なんだと思って彼女の顔を見る。そして、言った。

「依頼、受ける?」

 その表情は疑問がある顔ではない。実に挑発的だ。

 そんなこと、言わなくたっていいはずなのに。

 全員が声を揃えた。

「もちろん!」

 ロードマップがもう一つ、進んだ気がした。

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