カウントストップ

 気持ち新たに特殊警備隊として歩んでいく。覚悟もできた。

 とはいえだ。

 次から次へと妖退治の仕事が回ってこないのが白虎軍だった。その上、成果を挙げられなかった班に仕事がくるはずもない。

 ので。

 フウリたちはいつも通り二次的な仕事に汗を流していた。

 それでも不満はなかった。誰かの役に立っていることは間違いなかったし、何より誰も傷つかないで済む。フウリは十分満足していた。

 しかし、他の三人は別だった。タイトを筆頭に三人ともそれなりに不満が溜まってきている様子で、有り余る力を発散できる場所を探している様子だった。

「何もできなかったことが悔しいんだよ」

 タイトはそう言った。

 ホウカとウルが妖に襲われたとき、フウリたちは誰一人何もできなかった。それは紛れも無い事実で、変えようの無い過去だった。

 だからこそ、戦場に立ちたい。

 彼らの総意だった。

 仕事の合間に今まで以上に鍛錬の時間を設けた。空き時間があれば勝手に体が動くようになり、自分を磨いている。誰が言ったわけでもなく、自分から望んでやっていたことだった。

「もちろん、前回みたいなレベルをもう一度、とは言わないわ。さすがに、今の私たちにあれをどうにかできるなんて思っていないから」

 私たちに必要なのは、経験なのだとキイノが言った。

 少しでも多く戦場で戦い、自分の中に経験を積み上げていく。それが強くなるためには必要なんだと、そう言った。

「失わないためにできること。それが強くなることなんだって、私は思うよ」

 アイジュが言った。

 仲間たちは総じて、素晴らしい特殊警備隊だとフウリは思う。そんな彼らをフウリは誰よりも信じている。この世界で一番信頼できて、そして彼らが自分を信じてくれていることもよくわかっていた。

 けれど。

 そう思えば思うほど、失うのが怖くなった。

 ホウカとウルがそうなってしまったように、彼らもいつかいなくなってしまうような気がしてしょうがなかった。

 大事になればなるほど、怖くなった。

 

 そんな思いを胸のうちにひた隠しながら仕事に従事していたある日のこと。

 依頼先である地方の食事処で本日の夕飯を囲んでいるとタイトが言った。

「なあフウリくん」

「え、なんだよ急に。くん付け?」

 出会ってから一度たりともくん付けなんかしたことのないタイトに急に呼ばれて戸惑った。

 キャラ変かとも思ったが、その表情を見る限りそうではないらしい。妙に真剣な顔をしていた。

「言いたいことがあるんだが」

「うん」

「何か、一人で考えてることがあるだろ」

 フウリはどきりとした。

 その様子にタイトはため息をついて、続けた。

「ここ最近、お前の様子がおかしくてな。俺だけじゃない、アイジュもキイノもそう思ってるよ」

 二人を見ると、首を縦に何度も振っていた。

「俺たちが鍛錬してる時に慈愛の表情で見たり、布団に入ってからやけにため息ついたり...」

 言われて初めて気づいた。自覚なんてなかった。

「普通じゃない。明らかにな。一体どうしたんだよ」

 タイトの声は終始穏やかだった。不機嫌そうにはしているが、怒ってはいないようだ。

 アイジュもキイノも同じだ。別に誰もフウリを咎めようとはしていない。ただ、自分の本音を聞かせてほしいと思っているだけなのだ。

 フウリは自分が情けなくなった。彼らを誰よりも信じていたはずなのに、自分だけで塞ぎ込んでいる。そして彼らに心配をかけて、不安にさせた。

「...ごめん」

 口から出たのは情けない謝罪だった。それにアイジュは首を横に振る。

「謝んないでよ。別に、怒ってるわけじゃないんだから。で、どうしたの」

 気づけば全員の箸が止まっている。せっかくの夕食なのに、冷めてしまうのは申し訳なかった。

「話すよ。でも、食べながらにしない?」

 食事を再開させてからフウリは自分の思いを一思いに話した。


「...なるほどね」

 全て言い終わった後にキイノが呟いた。

「まあ、わかんない訳ではないかな。私も考えなかった訳じゃないし」

「そうねー。でも、やることは変わらないかな、と思って」

「やること?」

 アイジュの相槌にフウリが聞き返した。アイジュは食事を終えて手を合わせた後答える。

「今後誰かが生き残ろうが死のうが、そんなこと今から考えてもしょうがないし。『今』、やるべきことは強くなること、それだけは変わらないでしょ?」

 確かに、アイジュの言う通りだ。強くならなければならないのに、いつまでも不確定な未来に憂鬱になって弱いままなのは一番情けない。

 けれど、自分はどこまでも臆病だ。

「だって...もしみんながいなくなったら...」

 この三人に会うまで友達なんていたことがない。この真っ白な見た目が災いして、どこへ行っても変な目で見られるばかりだった。おかげさまで人生における友達の数は三人でカウントがストップしている。

 フウリはその事実を伝えた。あなたたちがいないと、自分はひとりぼっちなのだと。

 すると聞き終えたタイトが言った。

「じゃあ、友達を作るのが一番の課題だな」

「...え?」

 タイトの提案を聞いたアイジュが首を縦に振って肯定した。

「うんうん、それいいね!私たち以外にも友達ができれば、フウリを支えてくれる人が増える!」

 アイジュがタイトとハイタッチした。ここで意見が合致するのは彼らが仲間なのか、それとも従兄弟だからだろうか。

 しかしフウリは必死に否定する。自分が友達作りが得意ではないことを知っているからだ。見た目が変だからという理由だけが生涯の友達三人な訳ではない。アイジュのような明朗さもなければ、タイトのような親しみやすさもない、キイノのように親切にできる訳でもない。そんな性格だって由来しているのだ。

 けれども彼らには全く効かなかった。聞き入れるつもりもないようだった。キイノに、

「そう言って逃げてるだけでしょ?」

と耳が痛いことを言われただけだった。

 それでも食い下がれない。フウリはなんとか言い訳をひねり出す。

「も、もし友達ができたとしても、特殊警備隊の中で友達作ったところで結局おんなじじゃないか!リスクは一緒な訳だし!ほら、友達を作らなくたって...」

 フウリの熱弁に、三人は顔を見合わせた。

 そしてフウリの方を見て口を揃えて言った。

「特殊警備隊以外で作ればいいじゃん」

 フウリの最後の言い訳はこうして打ち破られ、第61班の陰の目標が設定された。

『フウリのお友達を作ろう』

 さながら初等部で一番最初に掲げられるような目標だった。

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