ステラは永遠に

詠月

ステラは永遠に


 「さあ、今日の特別ゲストはー? なんとなんと!」



 大人気バラエティ番組の収録本番。



「今話題のアイドルユニット・ステラです!」



 司会の有名タレントの声と共に陽気なBGMが流れ出す。


 沸き上がる拍手の中、登場したのは高校生くらいのニ人の男子。



「「こんにちはー、ステラです!」」



 黒色を基調された青と緑の対の衣装。

 目配せやカウントがなくても重なる挨拶。

 顔を上げるタイミングもぴったりと合い、番組レギュラーメンバー陣から関心の声が上がる。



「おおっ、息ぴったり! 仲良いんだね」


「見てると何だか癒されるわー」


「本当ですか? 嬉しいです! ありがとうございます」



 青色の方が嬉しそうに明るく返す。


 ふわふわとした亜麻色の髪にたれ目。

 かわいい系に入るであろう彼はカメラに気付き、パチッとウインクをした。


 客席から黄色い歓声が上がる。



「じゃあまだ知らない子達のために、自己紹介をしてくれるかな」


「「はい」」



 司会に促され、2人はバラエティ初出演とは思えないほど自然に返事をした。



「はじめまして! ステラのリンでっす!」


「アオイです。よろしくお願いします」



 緑の少年、次いで青の少年がぺこりとお辞儀をする。



「仲良さそうだけど2人の関係は?」


「幼馴染みなんっすよ。幼稚園からだよな」



 だから仲は良いっすね、と緑の少年は答えた。


 軽くかきあげられた黒髪に力強い瞳。

 ワイルド系に入るであろう彼は近づいてきたカメラにフッと笑って見せる。


 余裕のあるその笑みに客席から何かが倒れる音が響いた。


 その様子にアオイが彼をちょっと、とつつく。



「やりすぎだよ」


「ん? ファンサは大事だろ?」


「そうじゃなくてー」


「あはは、本当に仲良いねぇ。人気出るよ絶対!」



 アオイとリンの絡みに司会がグッと親指を突き出す。


 その言葉にニ人はパッと会話を止め、顔を見合わせから揃って笑みを浮かべた。



「「ありがとうございます!」」



 その後も簡単なトークで盛り上がり、収録は順調に進んでいった。


 最後に全員で番組の決めポーズを決め、収録は幕を下ろした。



 




 ◆◆◆






 「お疲れさまー」


「「お疲れ様でした!」」



 収録が終わり、凛と蒼生は挨拶を交わしながら楽屋へと戻る。


 蒼生が扉を閉めるのと同時に、糸が切れたように凛がソファにドサッと倒れこんだ。



「あー、疲れた!」


「凛、衣装のままだよ。怒られちゃうよー」


「ん……」


「次も仕事あるし」


「……」


「あっ、おいこら、寝るな! 凛!」



 寝かけた凛を蒼生が慌てて起こしていると、コンコンと部屋がノックされた。



「おっつかれー、ニ人とも!」



 入ってきたのは黒色のTシャツにジーンズの若い男性。金髪をしっぽのように結んでいる彼は、マネージャーの瀬川夕輝だ。


 彼は一目で状況を理解するとやれやれと肩をすくめた。



「疲れてるねー。でも次も打ち合わせなんだよなあ」


「げっ」



 渋々体を起こした凛が嫌そうに眉をしかめる。



「皆同じこと言うじゃん……」


「まあまあ、良いことじゃんか! 無いよりいいだろー?」


「そりゃそうだけどさ……」



 凛は不満げにガシガシと髪をかいた。

 せっかくセットしてもらったのに台無しだ。


 凛くんはオシャレに無頓着だよなぁと夕輝は思う。



「なあ蒼生。お前さっきの人どう思った?」



 不意に凛が蒼生を振り返る。



「んー、僕は苦手かも」


「だよな!」



 ……ん?と夕輝は2人に視線を送った。



「君たち何の話してるんだ?」


「今日の司会の奴だよ」



 ケロッと凛が答える。



「なんか気に食わなかった」


「僕も。あの人僕らのこと仲が良いとしか言わなかったもん」


「いくらなんでも適当すぎだよな」


「だいたい、仲が良いだけで人気とか出ないだろうし」


「無責任。新人に無駄な期待を持たせるタイプだな」


「ちょっと、待て待て!」



 慌てて夕輝は2人の間に入った。



「新人がベテランの悪口を言うんじゃない! まだ早いぞ」


「だってさー」


「ほい、ささっと着替える着替える!」



 凛の顔にタオルを放ってから夕輝は蒼生を振り返った。



「ほら、蒼生くんも。本当に時間無くなるぞー?」



 荷物からスマホを取り出し椅子に座ろうとしていた蒼生はピタと動きを止める。



「あー……はーい」



 そう答えた蒼生は再びスマホをしまうと、凛と同時に私服を手にした。

 






 ◆◆◆






 ニ人分の飲み物を買い蒼生は楽屋へ戻った。部屋の中に夕輝の姿はなく凛だけが椅子に座っている。



「あれ、夕輝さんは?」


「電話。さっき出てった」



 蒼生の問いに凛はいじっていたスマホから顔を上げる。



「事務所からかな?」


「さあ、どうだろな。彼女だったりして」



 そう言う凛はどこか楽しげだった。


 凛の隣に座り蒼生は次の予定を確認する。

 次は事務所で打ち合わせ、その後にダンスレッスン。


 蒼生はこっそり息をついた。


 横から覗いていた凛が蒼生を見る。



「なあ、次のオフっていつだっけ?」


「んー……ニ週間後?」


「遠っ!」


「あと、その頃ちょうど中間試験だった気がする」


「……」



 凛は脱力した様子で机に突っ伏してしまった。



「ムリ……俺死ぬ」


「はいはい、死なないでねー」


「ムリ……」


「こら」



 その後頭部を蒼生はペシッと叩く。



「そんなんでこれからどうするんだよ」


「何だよ……蒼生も今ため息ついてたじゃん」


「僕は忙しさに関してじゃないから」


「は?」



 頭上にはてなを浮かべた凛が体を起こす。


 蒼生はまだスケジュールに視線を落としたままだった。



「まだ、歌番組はないんだなあって」


「……」


「まあデビューしたばっかりだし仕方ないんだけどさ」



 バラエティ番組。ニュース番組。

 ありがたいことにそれらにはステラは出演させてもらえた。


 けれど肝心な歌番組はまだだ。


 アイドルなのに、歌えていない。

 踊れない。ステージに立てない。



「……俺ら、まだステージに立ったことねぇもんな」



 歌いたい。踊りたい。

 ステージに立ちたい。


 レッスンだけじゃなくて。

 いつかはライブをして。


 それは凛も同じだった。



「まあでもさ」



 蒼生の頭に手を伸ばし凛は髪をくしゃっとかき混ぜた。



「わ、ちょっ、凛?」


「気にしてても仕方ねぇさ。俺らは地道に目の前の仕事やってこうぜ」



 ポカンと目を丸くする蒼生。


 そんな彼に凛はニカッと笑いかけた。



「ステラは永遠に続くんだから時間ならあるだろ!」


「……プッ、あはは、なにそれー」



 蒼生が吹き出す。


 緩んだ頬を悟られないようにそっと擦ってから。



「……そうだね。焦る必要はないか」


「そそ! 俺たちは俺たちのペースで」


「上がっていけばいいんだ」


「そこはステラにちなんで輝くとかで良くね?」


「じゃあ輝くで」


「なんか適当……」





 楽屋には今日も2人の笑い声が響き渡る。


 目指すはトップ。


 いつか絶対にライブを成功させるんだ。


 凛と蒼生。2人で。




 ──ステラは永遠に。



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ステラは永遠に 詠月 @Yozuki01

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