第8話 ケンカ

 次の日の土曜日。


 茉桜から話したいと連絡が来ていたが、無視をしていた。


 話したいことなんか何もないし!


 打ち上げは半分先生の奢りでご飯を食べる事になっていたので、レストランに向かう。


 現地集合となっていて、ウチが着く頃にはクラスの大半が集まっていた。


 昨日あんな事があったので正直茉桜とは顔を合わせずらいし、会いたくない。


 今日の打ち上げに参加するのも気分が乗らんかったんやけど、朱音と紫織もいるしウチだけ参加しない訳にもいかへんから、しぶしぶ出てきたって感じ。


 あー、思い出すと腹立ってきた。


 なんでウチが茉桜の事で悩まんとアカンねん。


 朱音と紫織はまだ来てへんみたいやな。


 ムカムカしながら、1人で待っていると後ろから話しかけられた。


 茉桜だ。


「叶彩」


「...」


「お願い、話を聞いて」


「...」


「昨日の事だけど」


 茉桜が話し出すと同時に朱音と紫織がやってきた。


 朱音はウチにベタベタしているけど、紫織とも仲がいい。


 結構2人で遊んだりする事が多いみたいだ。


「やっほ〜叶彩、茉桜ちゃん」


「早かったんだね」


「そやな」


「...」


「どうしたの?」


「なんもない。ほらみんな揃ったみたいや、行くで」


 先生が点呼を取り始めていた。


「よーし、みんないるなー。行くぞー」


 レストランに入り、予約していた席に案内される。


 ウチらはいつもみたいに3人で座り、体育祭で朱音と紫織とも打ち解けた茉桜も一緒に座る。


 朱音と紫織は楽しそうにお喋りをしているが、ウチと茉桜はあんまり会話に参加せずご飯にもあまり手につけていない。


 ウチがムスッとしているからか、茉桜も気まずそうにしている。


「もお〜どうしたの?」


「いつもの叶彩らしくないね、茉桜もなんだか様子が変だし」


「別に、普通や」


「...」


「ん〜?痴話喧嘩?」


「誰がや!」


「何があったの?話してみてよ」


「なんも無いって!」


 ウチは店を出た。


 店の中では茉桜に朱音、紫織が話を聞いていた。


「ね〜何があったの?」


「話してみてよ」


「...私が叶彩に告白したの」


 茉桜は話した、振られると思っていたから叶彩を煽るようにしてお試しで付き合っていた事。


「私は本当に叶彩が好きなの。女の子なのに女の子を好きになるなんて変だと思うでしょうけど、私の気持ちに嘘はないの」


「うん、信じるよ」


「そうそう〜、女の子同士だって付き合ったりするよ。だってあたしと紫織も付き合ってるもん」


「...え...?」


「ね〜」


「そうだね」


 そう言って手を握り合う2人。


「じゃ、いつも朱音さんが叶彩にベタベタとひっついていたのは?てっきり私は...」


「あ〜あれはカモフラージュのような感じだよ〜」


「うん、それに私は漫画を描いているんだ、女の子同士が絡み合う漫画」


「だから〜、心配しないで。あ、でも叶彩かっこいいから好きだけどね」


「あ、浮気だ」


「紫織はもっと好きだよ〜」


「ふふ、本当に仲がいいのね。羨ましいわ」


「どれだけ仲のいい友達でもね、話せない事ってあるからね〜。話したいけど話せない、みたいなね〜」


「そうそう、まあでもこの機会に叶彩にも話そうか、私達の事。茉桜にも話したし」


「そうだね〜。茉桜ちゃんそれで、ケンカになった理由は〜?」


 そうか、この2人にも秘密があったのね。


「...私が他の女の子と...その、キス...の練習をしていたから」


「あ〜、それはそれは」


「私は叶彩が本当に好き。でもお試しで付き合っているだけだから、何とか好きになってもらおうおしたの。叶彩はキスが好きみたいだったから、それで...夢中にさせようとしたの」


「かわいいね〜茉桜ちゃん。というか、叶彩ってキス好きなんだ〜」


「私までちょっと照れてしまうよ」


「でもね〜。良くない事、だよね?」


「ええ、もちろん、分かっているわ」


「叶彩も茉桜の事好きみたいだしね、ちゃんと話したら仲直り出来ると思うよ?」


「叶彩が私の事を好き?」


「うん〜、みてれば分かるよ〜。体育祭の練習の時も茉桜ちゃんを呼びに行ってもらったりしたのは気を使ったつもりなんだけどな〜」


「ほら、行っておいで」


 茉桜はさっきまでの元気の無い顔はどこに行ったのか、今は何か決心したような覚悟を決めた顔をしていた。


 あー、なんでこんなにイライラしてしまうんや。


 レストランの近くにあるベンチに座りながら昨日の事を思い出す。


「叶彩」


「なんや」


「話があるの」


「...」


 ドンっと勢いおいよく背中に抱きつく茉桜。


「な、なに!?」


「聞いて!」


「分かった、聞く!聞くから!」


 そう言うと、茉桜は離れた。


 ウチは立ち上がり茉桜の方を向き、話し出すのを待った。


「ごめんなさい、叶彩。私、何とか好きになってもらいたくて必死だったの」


「必死やから、他の女の子とキスすんの?茉桜はウチの事が好きなんちゃうん?」


「好き、大好き」


「じゃ、なんでなん」


「私、自信が無かったのよ。最初の日、我慢出来なくてキスしたら叶彩が嬉しそうにしてくれたから、これならいけると思ったのよ」


「別に嬉しそうにしてへんし」


 ウチがめっちゃキスしたい人みたいやん!


「だから、いろいろ頑張ったの。昨日来てた子は私が女の子しか好きになれないって知ってる子で中学の時の友達よ。好きな子が出来たって相談したら、いろいろ協力してくれたのよ。叶彩を惚れさせるためにキスの練習をしようって事になったの。私は叶彩に喜んでほしくて...」


 あー、何でイライラしてるのか分かった。


「そんなんウチで練習したらいいやろ!なんで他の女の子とキスすんねん!」


「...え?」


「茉桜はウチの事好きなんちゃうの!?」


「大好き」


「やったら、ウチに遠慮せんでいっぱいウチで練習したらいいやんか!」


「それって...」


「ウチは茉桜が好きなんや。他の女の子とせんといて。全部ウチにして」


「叶彩っ!大好き、隠しててごめんなさい」と言って茉桜が抱きついてくる。


 ウチも茉桜を抱きしめる。

 周りの目もあるけど気にしない。

 なかなか認められなかったけど、はっきりと分かる。

 ウチは茉桜が好きで、独り占めしたいんや。


「茉桜はウチのもんやし」


「うん、うん、大好き」


「こんな場所で抱き合ってるって事は仲直りしたんだね」


「よかったね〜、お二人さん」


 驚いてパッと離れる。

 だけど、茉桜はまた抱きついてきた。


「ちょっと!」


「大丈夫よ、あの二人なら」


「そうそう、照れなくていいよ」


「別に照れてへんし」


「あたし達も〜、付き合ってるから」と言って紫織の腕に絡まる朱音。


「え?」


 その後ウチはレストランに戻り朱音と紫織の話を聞いた。


 今となってはすぐに受け入れる事が出来た。


「にしてもウチの事漫画のネタにしてるなんてなー」


「ごめんって、叶彩」


「やきもち焼かないでね、あたしの一番は紫織だから〜」


「大丈夫よ、朱音。叶彩の一番は私だから」


「なんやねんそれ」


「違うの?」


「...違わんけど」


「ふふ」と嬉しそうに笑う茉桜。


 楽しい打ち上げになった。

 最初はどうなるかと思ったけど、無事に仲直りする事が出来た。


 ケンカしてた頃とは違って楽しい雰囲気で進んだ打ち上げは終わりを迎え、結構な値段だったらしく先生が涙目になっていたのは気にしない。


 ウチは結局夏休みになるまでに茉桜の事が好きになってしまった。


 勝負は茉桜の勝ちって事か。


 打ち上げの帰り道、朱音と紫織とは用事があると言ってどこかに行ってしまった。


 茉桜と二人でブラブラしている。


「叶彩、私の事好き?」


「...うん」


「言って」


「好き」


「ふふ、好きって言ってもらえると、とても嬉しいわね。それに、勝負は私の勝ちって事ね」


「あの頃は好きになるはず無いと思ってたんやけどな」


「じゃ、私の勝ちだし。私のお願い聞いてくれる?」


「なにそれ」


「ダメなの?」


 なんか、茉桜がいつもよりかわいく見える。

 そんな言い方されたら、断りづらいやん。


「まあ、いいけど」


「ふふ、じゃ叶彩の家に泊まりに行ってもいいかしら?」


「今日?」


「今日でもいいの?」


「まあ大丈夫やと思うよ」


 ウチは親に連絡して了承も得た。


「とても嬉しいわ」


「じゃ、今日は叶彩の家に泊まって明日は私の家で遊びましょう?」


「え、お願いって一つちゃうの?」


「遠慮しなくていいんでしょ?」


「はいはい」


 嬉しそうに腕に引っ付いてくる茉桜。


 今日ウチにかわいい彼女が出来ました。

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