第7話 お昼の続き

 体育祭の日の放課後。


 ウチと茉桜はまだやる事があると言って朱音と紫織には先に帰ってもらった。


 2人は残念そうにしていたけど、明日は打ち上げがあり、そこで会えるからということでとりあえず納得してもらった。


 やる事があると言って別れたはいいが、実際にはやる事が無く、時間を見計らって2人で帰り、いつものように茉桜の家に行く。


 現在体育祭が終わり6月の後半、夏休みが始まるのは7月の後半からだ。後だいたい1ヶ月と思っておいていいだろう。


 正直...ウチは茉桜の事嫌いじゃないし。なんだかんだ一緒にいるのも楽しいし、茉桜かわいいし、ウチの事かわいいって言ってくれるし、いやいや、別にかわいいって言われて嬉しいとか、まあ、嬉しいか。


 嬉しいけど!


 けど、ウチは男子が好きなはずやのに、なんでこんな茉桜の事ばっかり考えてしまうんやろ。


 茉桜の部屋に入り、ベッドにもたれかかりクッションに座って考え事をしていると茉桜が足の上に乗ってきた。


「これ好きやなあ」


「ふふ、人の上に乗るのは気分がいいわね。いや、叶彩の上だからかしら。いつもかっこよくてみんなに人気のある叶彩。でも私といる時はかっこよさだけではなく、かわいくなってしまうんだもの。ふふ、興奮してしまうわね」


「ヘ、ヘンタイ!」


「でも、嬉しいでしょ?」


「なんやそれ...」と言って目を逸らす。


「気づいてないのかしら。いつも一緒にいる時は物欲しそうな顔で私を見てるじゃない。キスをして欲しがっている叶彩、触って欲しそうにしている叶彩。とてもかわいいわよ?」


 顔が熱くなる。


「ふふ」妖艶にクスクスと笑い、茉桜はキスをしてきた。


 ああ、やっぱり。気持ちいい。


 ウチは茉桜の事が好きなのかもしれない...。


 でも、認めたくない。


「後、1ヶ月くらいね。約束の日は」


「そうやな」


「どうかしら、私の事、好きになった?」


「全然好きになってへん!」


「ふふ」


「なんや」


「そんな顔で言われてもね」


「真顔や!」


 茉桜はウチの頭を撫でながら「まったく、頑固なんだから。いっぱいキスをして、触って素直にさせたあげるわね」と言った。


「ていうか、茉桜は何でそんなにキスが上手いんや?」


「うまいかしら?」


「まあ...ウチはキスしたん、茉桜が初めてやし分からんけどうまいと思う」


 どうせ、いろんな女子捕まえてキスしまくってんねやろうな。


 そう思うと胸がちくっとした。


 なんかムカムカしてきた。


「スマホで色々調べで勉強したのよ」と少し顔を赤くしながら言った。


 へ?


 なにそれ。


 ポカンとしているウチをみて茉桜は話し出した。


「叶彩がいつも告白を断っているのは知っていたからね、女の子は恋愛対象に見れないって。まるで自分に言い聞かせているようにね」


「知らん」


「ふふ。だから私は素直になってもらおうと頑張ったのよ。女の子にキスをされたら嫌でも意識すると思ったの。予想以上に効果があって驚いているわ」


「全然効果無いと思うけど?」


「そうかしら?キスをして欲しそうに私の口を見てくるじゃない」


「見てない」


 ちゅっとキスをする茉桜。


 ピンポーンとインタホーンがなる。


「誰かしら、見てくるから少し待ってて」


 茉桜は立ち上がり玄関に向かった。


 誰かと話しているようだった。


 女の子の声が聞こえる。


 気になって部屋を出て階段の上から様子を見る。


「あれ?今日は練習の日じゃなかった?」


「違うわよ、今は忙しいから帰って」


「えぇ、せっかく来たのに。ちょっとだけでもキスの練習しとかない?」


 キスの練習?


 心臓の音が速くなっていくのが分かる。


「また連絡するから、今日は帰って」


「キス以上の練習もそろそろ必要って言ってたじゃん」


 なに、それ。


 練習して、ウチで遊んでたって事?


 分からん、意味が分からん。


「まあ、いいや。じゃ今日は帰るね」


「ええ」


 茉桜がその女の子に別れを告げて部屋に戻ってくるので、ウチも急いで部屋に戻る。


「お待たせ」


「うん」


 またさっきみたいに乗ってくる茉桜。


 ムカつく。


 茉桜が話し出す前に「今の女の子は何やったん?」と切り出した。


 茉桜は驚いている。


「見てたの?」


「見てたし聞いてた」


「そう...」


「練習とか言ってたやん、なんなん」


「それは..」


 言いづらそうに俯く茉桜。


 やっぱり、言えへんような事考えてるんや。

 あの女の子と練習した事をウチで試した遊んでたんや。


「もういい!帰るわ!」


 どん、と茉桜を押し退けて荷物を持ち、逃げるように部屋を出て行く。


「待って!説明するから!」と茉桜が叫んでいるが何も聞きたくなかった。


「うるさい!聞きたないわ!」


「叶彩!」


 なんも聞きたくなった。


 ムカつくわ、なんやねん!

 ウチは、茉桜の事...。


 もうどうでもええわ!


 というか調べてたって言ってたやん、調べて他の女の子と練習...キスしまくってたんやん!

 なんやねん!

 ウチの事が好きなんちゃうんか!

 あームカつく!


 そりゃ、正式に付き合ってるわけでもないし、ウチがなんか言えるような立場ちゃうけど!


 あーもう!


 すごい勢いで飛び出して走って駅まで向かった。


 振り返ってみたけど、茉桜は追いかけてきてはいなかった。


 もう!

 なんでちょっと期待してんねん!


 考えんな!


 ...なんでこんな気持ちになんねん...!


 


 そうか、ウチは茉桜の事が好きなんやな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る