「センパイ、集中しましょう!」


「えぇっと…、センパイ。ここは…」


さすが私。問二の問題で躓いてしまった。問一はさすがにサービス問題のため難なく解けたが、やはり数学は苦手なようだ。


私がそう聞くとセンパイは嫌な顔ひとつせずに問題の方を覗いてくれた。「どこですか?」という問いに私は恥ずかしくも問二の今まさに躓いている問題を指差す。


「ここです」


「あぁ…ここですか。数学が苦手な人は少し苦手ですよね。参考書はありますか?」


「あります!」


そう言って私は以前センパイから譲り受けた参考書を渡す。センパイから貰った時に既に擦れていたり少し折れてしまっていたりしていたが、私が受け継いでからというものの、より使用感が増したと思う。


大切だと思うところにマーカーを引いたり、何度も開いたページには回数別で付箋を貼ってある(一回目は青い付箋、二回目は黄色い付箋、三回目以降は赤い付箋など)。


それをペラペラと捲り、センパイは対象のページを開いた。


「こちらですね。こちらの公式を使えばできるかと思います。計算ミスをしがちなので気を付けてくださいね」


「ありがとうございます!」


センパイに開いてもらったページを見れば黄色い付箋。どうやら二回も開いていたようだ。私はその黄色い付箋を赤い付箋に張り替える。ここまで何回も開いているというのに分からないのはある種の才能だろう。


数学はむずかしいもんね。しょうがない…。


そんな事を自分に言い聞かせて私は問題を解く。本当はセンパイとイチャイチャしながら勉強がしたいなぁ、とか思っていたけれど。


「…………」


チラリ、と視線をあげると真剣な顔で難しそうな問題を解いているセンパイ。サラサラとシャーペンが止まっていないという事は特に問題なく解けているという事だろう。


さすがセンパイ。私も見習わなくては。


そう意気込んで私はもう一度宿題に目を向ける。


「えっと…」


センパイな教えてもらった公式を問題文にある数字に当てはめて計算をする。計算ミスは1番数学でやってはいけないケアレスミスだと思っているため丁寧に計算をする。


カチカチ、と時計の秒針とシャーペンが走る音が聞こえる。それだけ2人とも集中しているという事だろう。普段ならそれほど集中も出来ないが(というよりも確か人の集中力は15分が限度と聞いた事がある)、センパイとなら不思議と集中できた。


なるほどこれがセンパイパワーというやつなのか。


しかしそう考えていると段々と集中力が切れていくのが分かる。チラチラと時計を確認したり、正面にいるセンパイの様子を伺ってしまったり、ノートの端にお絵描きをしてしまったり。


集中力が切れてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る