「センパイ、約束ですよ!」
「あれ? あれあれ? 栄一くんじゃん。こんにちは〜」
ママがチラリッ、と洗面所から顔を出す。センパイが来ていると分かると手に持っていたタオルを(恐らく)洗濯カゴの中に放り、こちらへやってきた。
「こんにちは」
「え、何? 優良もう行くの?」
「もう行くよ。センパイがママにちょっと挨拶があるって」
「そんな〜、いいのに〜」
と言いながらおばさんのように手を招き猫のように動かす。思わず「ママ、おばさんみたいだよ」と言いかけたがギリギリで口を閉ざす。
もしそんな事を言ってみろ。お勉強会(お泊まり会)は却下されてしまう。
「いえ。そういう訳にもいきませんので」
センパイはそう言うと「これ、僕のおすすめなんです」と駅前にあるケーキ屋さんの箱をママに渡した。
あれ? ちょっと待って、そこってちょっとばかし高くて私が買おうって言ってもママが許可してくれなかったところ!!!! なんでママとパパだけが食べるの!!! ずるい!!!
「えっ、嘘。わ〜! ありがとうね〜。ここ有名なところだよね。気になってたんだよ〜」
ケーキの箱を受け取ったママはニコニコとご機嫌な笑顔を浮べる。くっそう。私が食べたかったのにずるい。
すると私がずるいと言いたげな表情をしていたのか、それとも羨ましそうな表情をしていたのか、センパイが「優良さんの分も家にありますよ」と教えてくれた。
「本当ですか! やったぁ!」
ケーキで喜んでいるなんて子供みたい? この場合は子供で結構。
「それじゃママ! 行ってくるね!」
「行ってきます」
「うん! 行ってらっしゃい。優良、迷惑かけないでね。栄一くん、優良をよろしく」
口早にそう言うママに私は「迷惑かけないってば!」と言って微笑ましそうに笑うセンパイの背中を押す。全く。いつまで経ってもママは子供扱いするんだから。
「すみません、センパイ。うちのママがテンション高くて…」
センパイの隣を歩きながら私はそう言う。
「いえ。とても明るいお義母さんですよ。素敵だと思います」
“素敵”と言えるセンパイが“素敵”ですよ、と歯の浮いたセリフを言おうとしたがやっぱり恥ずかしくて断念。
「まぁ、ママは本当にいいママだと思いますけどね! ママのご飯美味しいですし」
「何が一番好きですか?」
「ダントツでハンバーグです!」
「そうなんですね。それは僕も今度食べてみたいですね」
「ぜひぜひ!」
やった! これでまたひとつセンパイとの約束ができた!
なんて喜びながら私たちはセンパイの家へと向かったのだった。
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