「センパイ、聞かないでください」
「よしっ!」
翌朝、私は鏡の前で身だしなみを確認する。ちなみに勉強会(基《もとい》お泊まり会)はセンパイのお家らしく、ママに頼んで買ってきてもらったご家族へのお土産もバッチリである。
髪型は勉強に集中出来るように(センパイは出来ないかもしれないが)ポニーテール。服装は少しダボッとしたシンプルなトップスにショートパンツ。素足は寒いためタイツを履いている。
「あとはセンパイが来るのを待つだけか」
少し前まで私がセンパイの事をお迎えに行っていたためこうして待つのはなんだかソワソワしてしまう。学校へ行く時はいつも遅刻ギリギリだからこうして待つ事が新鮮である。
傍から見てもソワソワしているのが丸わかりなのかママはくすくすと笑っていた。普段ならそこでツッコミをするところだが私にはその余裕がなかった。
だって、お泊まりってつまりはそういう事だから。多分。
でもさすがにセンパイも両親がいるのにそんな事はしないか、なんて気持ちを切り替える。でもあれだな、長瀬クンは普通にいそうである。くっそ。
そんな事を思っているとチャイムが鳴った。誰かなんて見ないでもわかる。センパイだ。
私は「はーい!」と言いながら玄関を開ける。パッ、と視界に入るのはやはりセンパイだ。センパイもゆったりとした無地ニットのトップスにジーパンを履いている。
合わせたわけではないがまるで合わせたかのような服装に思わず微笑みが漏れる。
「ん、ふふっ」
「おはようございます、優良さん」
「おはようございます! センパイ!」
「優良さんは朝から元気ですね」
「そりゃーだってですよ! テンション上がりたくもなりますって〜」
「そうでしたか。楽しみにしていただけていたようで良かったです」
センパイはそう言うと「あの」と思い出したように口を開いた。
「優良さんのお義母さんには会えますか?」
「え? ママですか?」
「えぇ。大事な娘さんを預かるのですからきちんとご挨拶をと思いまして」
「そんな! 大丈夫ですよ」
それよりも早く先センパイと一緒に勉強会(という名のお泊まり会)をしたい、と言いかけたがぐっ、と抑える。
「いえ、そういう訳にはいきませんので」
「うぅ…、分かりました…」
引き下がらなかったセンパイを連れて私は玄関まで戻る。きっとママは家事でセンパイが来た事に気づいていないため恐らく洗面所で洗濯をしているママに声をかける。
「ママー! 私もう行くよ〜!」
「え〜? なに〜?」
「もう行くのー! ママー! 来て〜!」
「は〜い」
と、ここまでママと会話をしてハッ、と我に返る。ゴリッゴリに家庭内会話をしてしまっていた! センパイ、聞いてないといいな(無理)と思いながら振り返る。
「ふふっ」
聞いていたようだ。
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