「えみ、躊躇ってよ」


「それでね! センパイったら普通にペロってラーメン食べてたんだよ! 凄いよね〜!」


『あー、うんそうだね』


「私なんてまだ半分しか食べてなかったのにだよ! やっぱり男子だよね〜。ほんとクラスの男子とは大違い!」


『そもそも優良はあまり話してないじゃん』


「だってセンパイ以外の男に時間使いたくないし…」


『出たよ、極端発言…』


電話越しにえみの呆れた声が聞こえる。だって本当の事じゃないか。私がクラスの男子と話してセンパイに勘違いでもされてみろ。私は本気で悲しくなる。


『それよりも明日の準備はいいの?』


「今やってる…」


『本当?』


「電話に集中してて今ぐっちゃぐちゃ」


『ほら』


目の前の床に広がる服や下着、机の上にとりあえず出した冬休みの宿題の山。時刻は23時を越えようとしている。


先程センパイから10時に迎えにくるという連絡があった。そのため1時間で準備が出来たとしたら私の睡眠時間は8時間。しかしそんな上手くいくわけもなく、恐らく明日の準備に2時間はかかるだろう(それは最早“明日”ではなく“今日”の準備である)。


『電話切るよー』


「待って! 待って待って! 私一人じゃ準備できない!」


『一人で準備しなよ。子供じゃないんだから』


「ねー、国語と英語は自分でできるから数学と化学とー、物理、あとは地理と世界史持っていけばいいかな? あれ? これだと多いかも…」


『話を聞いて、お願いだから。あと1日なんだから数学と気晴らしに計算がある化学持っていけば?』


「ナイスー! そうする〜」


とりあえず持っていく宿題は決まり、残りを机の上に放置して数学と化学をバッグの中に入れる。それから下着を一日分と着替え。外には出ない予定だからそんなに可愛いものではなくパーカーにジーパンというシンプルなもの。


「これで大丈夫かな?」


『んー。大丈夫じゃん?』


「えみ適当すぎる! お泊まりだよ! お泊まり!」


『って言ってもなぁ。うちはお泊まりした事ないし…』


「え! ないの?」


『ないね』


「意外だね〜」なんて言いながら私はお泊まりの準備を整える。他に忘れ物がないかどうかえみと話しながら確かめが終わり、チャックを締めると時間は12時だった。2時間かからなかったのはえみが手伝ってくれたおかげだろう。


「よしっ! これで大丈夫かな!」


『お疲れ様。うちもう寝ていい?』


「なんでよ」


『いや、こっちが“なんでよ”だよ。早く寝させて』


12時じゃん!」


12時なの。』


電話の向こうで頭を抱えているであろうえみひ私は「分かったよ…」とやや悲しそうに言う。


『うん。じゃーお疲れ様バイバーイ』


ブチッ。


……………いや、悲しそうに言ってたんだから少しは躊躇うとかしてよ……。



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