「センパイ、楽しみです」


「それでは優良さん、勉強会の準備、よろしくお願いしますね」


センパイは私の家の前で再度確認をするようにそう言った。私はこれでもかという程頭を振り、了解の意を示した。


「わっ、分かりました!」


「ふふ。楽しみにしていますね」


本当に楽しそうに笑うとセンパイは「それでは」と短く挨拶をする。


「はいっ。家まで送ってくれてありがとうございました」


「いえ。僕がしたかっただけですので」


“僕がしたかっただけ”。なるほど。モテる男の人はそう言うのか。危うく惚れてしまうところだった(もう既に惚れている)。


「ではまた明日」


「また明日」


どうやら今から緊張しているようで私の声はいつもよりも少し緊張気味だ。そんな私に気づいているのか気づいていないのか、センパイは「ふふ」と笑って私が家に入るまで待つ。


どうやら心配のようで私が家に入らないと帰らないようなのだ。それはそれで可愛いが私もセンパイの事を見送りたい気持ちもある(しかし私が家に入らないと本当に帰らない気がするのでいつも先に入ってしまうのだ)。


バタン、と扉を閉めて私はその場に座り、短く息を漏らした。


「………ふぅ…」


今から心臓がバクバクと鼓動をしていては当日どうなるか分かったものじゃない。それこそ文字通り口から心臓が飛び出てしまう可能性だってある。なんてこった。


「優良〜。何そんなところで座ってるの?」


「ママ……。変人を見るような目で見ないで…」


まるで変人を見るかのような目でこちらを見てくるママに私はため息をつきながらそう言う。するとママは楽しそうに笑った。嫌な予感しかしない。


「あっら〜? もしかして“お泊まり”の事?」


「ちが……ッ、くないけど! 違う!」


「どっち〜?」


ケラケラと笑いながらママはキッチンへと戻っていく。くっそ。人の気も知らないで…。


でもママがパパに上手く言ってくれなかったらセンパイとの勉強会はなかったんだよな、と気持ちを切り替えながら私は荷物を置きに部屋へ戻る。


「あっ、そうだ…。えみに連絡…」


携帯を取り出して画面をスライドさせ、アプリを起動する。


《センパイと明日お泊まりする》


とてもシンプルな内容だがそれだけをえみに送る。きっと食いついてくれるだろう。そう思っていたらすぐに返信が来た。


ほらやっぱりえみも気になっていたのだろう。


そう思いながら私はメッセージを確認する。


《承知》


《連絡随時送るね!》


《拒否》


《なんでよ!》


《迷惑》


《泣くぞ》


《承知》


《え、何。漢字二文字しか使えない呪いでもかかったの?》



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