「センパイ、ラーメンは万能ですか?」


「急ではありませんよ」


いや、急です。なんて思いながら私はバッグの中からヘアゴムを入れているケースを取り出す。


「元々優良さんが良ければそのつもりでしたから」


「もしダメだったらどうする気だったんですか?」


「予定を開けてもらっていました。ふふ。ですが優良さんがお泊まりの事を知りつつバイトなどを入れるような方ではないと分かっていたのでさほど心配はしていませんでしたよ」


なるほど。つまり私はセンパイに信頼されている、という事で間違いないのでは?


なんて幸せに浸りながら私は髪の毛をひとつに結わえる。しかし体育など激しく動く事はないため緩くポニーテールよりは低めにまとめた。


ハラ…ッ、と髪の毛が落ちた。あっ、と髪を耳にかけようとするとそれよりも先にセンパイの手が私の髪に触れた。


「いつもまとめていないので新鮮ですね」


「はわ…っ」


センパイはそう言うと「ふふ」と笑って私の耳に垂れた髪を耳にかける。そのスマートとも言える流れた動作に思わず変な言葉を口走ってしまった。


「なんですか。“はわ…っ”って」


「センパイ、もしや浮かれていますか?」


「おや。バレてしまいましたね」


分かりやすい。こんなに分かりやすく浮かれているセンパイをかつて私が見た事があっただろうか。いや、ないだろう。


少なくとも私の中でセンパイはポーカーフェイスボーイとして君臨している。そのポーカーフェイスボーイがこんなにも分かりやすく浮かれているのは中々に珍しい。


それだけ私に心を許してくれているという事なのだろう(まぁ私からしたらもっと前から心を許してもいいんじゃないかって思うけどね!!)。


「センパイもわかりやすくなってきましたね」


「違いますよ、優良さん」


センパイはそう言うと店主からラーメンを受け取る。続けて私の分のラーメンもきたためカウンター席から少し立ち上がって受け取る。


ふわっ、と香るニンニクのいい匂い。食欲がそそる香りだ。


「優良さんが僕の事を分かってきたんですよ。きっと他の人は浮かれているなんて分かりませんよ」


「はい、どうぞ」なんて言ってセンパイは私に割り箸を渡してくる。


「ありがとうございます」


そっか、私がセンパイを分かってきたのか。なんてやっと自覚しながらお礼を言う。


「よかったですね」


「何だか無駄にドキドキしてきました…」


「おや。心不全ですか?」


「死にますかね、これ…」


「病院行きますか?」


「…ラーメン食べれば治る気がします」


「それでしたらどうぞ。いただきましょうか」


「いただきます」


「いただきます」


今思ったんですけど、センパイ。ラーメンで心不全は治らないですよ。



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