「センパイ、ノックアウトしました」
「あああああああっっ!!!」
震える。これは武者震いなのだろうか。否、武者震いではないだろう。心臓が鼓動を早め、呼吸は荒くなる。視界が揺れに揺れ、目の前のものも捉えられなくなっている。
薬をやっているのかと疑われるような声が小さく口から溢れ出た。あまり大きな声は出せない。
周りの目など気にもしないで私は目の前の生物に指をチョンッ、と優しく、あくまでも添える程度で触れた。
「にゃおん?」
「あああああああっっ!!!!」
その生物─黒猫ちゃん─はこちらを振り返り、なんだ? とでも言いたげに私と視線を合わせた。と同時に私は目を抑えて壁にもたれかかった。
「かっ、可愛い…ッ」
「優良さん大丈夫ですか?」
「死んでます、ダメです。助けてください」
「ご愁傷様です」
センパイは「ふふ」なんて笑いながらいつの間にか膝の上にいた猫ちゃんを優しく撫でる。そうか、私もソファーに座れば猫ちゃんにもっと触れられるかもしれない。
そう思って床からソファーに座り直す。ドキドキと先程触らせていただいた猫ちゃんの方を見るが。
「………にゃお」
無視。私には飽きたのかふいっ、と顔を逸らしてその場で毛繕いを始めてしまった。しかし毛繕いなんて生で見たためそれも新鮮で魅入ってしまう。
「んふふふっ。可愛いですね〜、センパイ!」
「えぇ。癒されます」
相も変わらずセンパイの膝の上にいる猫ちゃんは気持ちよさそうにセンパイに撫でられている。
「センパイ。その猫ちゃんは自分からそこにかたんですか?」
「えぇ。無理に触るのも、と思いましてソファーに座っていたところを」
「羨ましいです…っ」
ぬぐぐぐぐ、やはりセンパイから醸し出される素敵な人オーラは猫ちゃんにも分かるのだろうか。だとしたら相当な熟練の猫ちゃんである。私も負けていられない。
「焦らないで待っていたらきっと来てくれますよ」
「そうですかね…?」
なんて言っているとゆったりのったりとまた別の白い猫ちゃんがやってきた。その猫ちゃんはゆっくりと私の足元までるとストン、とその場に座った。
「おおおおおおっ!!!」
あまりの嬉しさに猫ちゃんがビックリしないくらいの大きさで感動を声で示す。
「優良さん、さっきから同じ事ばかりですね」
「そりゃ猫ちゃんですし。正常でいられないというか、なんというか…」
「ふふ。そうなんですね。お気持ちは分かります。僕もそうですので」
「センパイもですか?」
チラリ、と猫ちゃんからセンパイに視線を移すと未だに膝の上にいる猫ちゃんと目が合った。とても可愛い。
「はああああっっっ!!!!」
結城優良。ノックアウト。
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