「部長、サイテーです」


「優良ちゃん、ドンマイ…ふふっ、んっふふっ…かわっ、可哀想に…ふふっ」


しょんぼりと悲しむ私の様子を部長は笑いを堪えながらも(しかし堪えきれていない)同情の言葉をかける。傍から見た部長からは私がなんとも滑稽なのかもしれないが自身である私からしたら全くもって滑稽ではないのである。


「それよりも今思ったのですが…」


と、センパイが切り出した。私のしょんぼりが“それよりも”なのは些か悲しいところではあるがそう思ってくれていた方がある意味、いいのかもしれない。


「この雪だるまを作ってしまっては屋上に入った事がバレてしまうのでは?」


「あ」


「あ」


センパイの発言に私と部長は間抜けな声を上げる。


なぜそれに気づかなかったのだろうか。普段誰も入るはずのない屋上に人工物である雪だるまを遠目から確認したら不審に思って先生が見に来てしまうというのに。


しかも雪だるまの場所はご丁寧にも屋上のドアについている窓から見える位置である。


これはしまった、と頭を抱える私に対して部長は一切何の躊躇いもなく回し蹴りで雪だるまの頭部を破壊した。


「やあ!」


スパコーーンッ! と雪だるまの頭が粉砕。跡形もなく崩れてしまった。南無阿弥陀仏。


なんて言っていられない。あんなに手を痛めて作った雪だるまをこうも易々と壊されては悲しみが溢れてしまうというものである。


部長の行動に驚いた私は思わず雪だるまに駆け寄る。部長の回し蹴りによって頭部を粉砕された悲しい雪だるま。もうその姿は以前のような不格好でありながらも可愛げのある姿を留めてはいなかった。


「雪雄…!」


「雪雄? え? 今、雪雄って言った?」


「えぇ…確かに雪雄と言いましたね…」


「部長っ! 雪雄になんて事を!!!」


そう言って私は部長をキリッ、と睨みつける。当の本人である部長は「えぇ…っ」と困ったように眉を曲げた。


「なんて事を! 私たちの断りもなしに!!」


「でっ、でも! 見つかったら確実に屋上の鍵、新しくされるんだよ?」


「そんなの私が知った事じゃないです! 困るのはせいぜい不良たちと部長じゃないですか!」


「俺からしたらサボりポイントがなくなってめちゃ困るって!」


「受験生でしょう!!! 勉強してくださいっ!」


「正論すぎてぐぅの音も出ないっっ!!」


部長はそう叫ぶと私の正論が効いたのそのまま膝から崩れ落ちてしまった。私の完全勝利。やったね。


ふんす、と怒りを鎮めた後、私は足で雪だるまの下部を粉砕する。さっきまで怒っていた人とは思えない行動にこれには部長もセンパイも驚いたようだ。



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