「センパイ、決まりました!」


「“どうしたの? ”じゃないですよ! 鍵を受け取りに来たんですー!」


「鍵?」


コテン、と首を傾げてなんの事やら、といった表情をする部長。おいおい、まさか無くしたとか言うんじゃ…。


「美術室の鍵です。持っていませんか?」


センパイがやや呆れたようにそう聞くと部長は「あぁ!」とポンッと手を叩く。それからゴソゴソと左のポケットを探り、そこになかったのか右のポケットを探り…。そして鍵を取り出した。


「てってれー!」


「“てってれー”じゃないですよ。きちんと美術室に置いておいてください」


センパイはそう言うと部長から鍵を受け取る。


「えへへ。ごめんごめんって! でもさー! 見てよ! めっちゃ景色いいよ〜」


部長は怒られ慣れているのか(本来慣れるものではない)、ケラケラと笑いながら前方を指さした。そちらに目線を向けると確かに景色が良く、目を見開いてしまった。


一面銀世界、なんてありふれた言葉だろうが正にその通りだ。放課後で誰も踏み入れない裏庭に降り積もった雪。普段は茶色の地面が真っ白に塗り変わっていて同じ景色なのに違う景色のように感じられた。


「わぁ…」


思わず口から声が漏れる。


───もし、


もし、この地面に足跡を残す事が出来たならどんなに気持ちがいいのだろうか。


仮に私がその足跡を残す事が出来るのなら、何を思うだろうか。何を思って、足跡を残すだろう?


「優良さん?」


「お〜い。優良ちゃん?」


「決めました」


「ん?」


首を傾げる部長とセンパイがこちらを見る。私はそんな2人に宣言をするようにこう言った。


「決めました! 今回の冬のコンクールのテーマは“雪”にします!」


私が自信満々にそう言うと2人はいつものようにすぐには却下をしなかった。なぜか。それはきっと私の目がキラキラと輝いているからだろう。


「理由をお聞きしても?」


「私! 雪に足跡を残した絵が描きたいです! 何を思って、誰が足跡を残したのか。それが描きたいです! 足跡を残したのが子供なのか、大人なのか。なぜ一番に雪の上を歩いたのか。目的は? 雪合戦なのか、雪だるまなのか、ただ歩いただけなのか…。雪の上を歩いただけで色々な解釈が出来るんですよ! 私はそれが描きたいです…!」


一気に思っていた事を話したため呼吸が少し荒くなってしまった。しかし想いは2人に伝わったようでニッコリと笑って首を縦に振ってくれた。


「はい。とても素敵だと思います」


「いいと思う! 頑張れ〜、優良ちゃん!」


「ありがとうございますっ!」


描く題材は決まった。

あとは完成まで描き続けるのみ…!



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