「センパイ、こんにちは!」


「おぉ…」


部長を見送った後、すぐに窓の外に降る雪を眺めていても本降りにはならなかった。しかし眺める事五分。少しずつ本降りになってきていた。


絵を描く事が少しスランプになっていたため、こういうイレギュラーな事は大歓迎である。


「…そうだっ」


今この降る雪を模写してしまおう、と思い立ち私は机に置いてあったスケッチブックを手に取り、急いで窓際の椅子に座った。


ページを捲り、真っ白な新しいスケッチブックに鉛筆を走らせる。スケッチするものは窓の外から見える雪と花壇。花壇にも雪が振り積もっていて花たちが寒そうである。


もし私が画家ならば花たちにマフラーや帽子を被せてあげたり、雪の中、夏の日差しを指させてあげたと言うのに。


「何をしているんですか?」


そんな事を思っていた時だった。センパイが私の視界いっぱいに入ってきた。


「わっ」、と思わずのけぞってしまう私の体。なんてセンパイに失礼なんだ。切腹ものである。


「こんにちは。何やら真剣にスケッチをしていたみたいでしたが、気になってしまって…」


「大丈夫ですよ! 今は雪をスケッチしていたんです!」


「へぇ。雪ですか」


センパイはそう言うと私の隣の席に座り、模写していた私の絵を見る。まだ花壇に咲いた花たちしか描いていなく、恥ずかしい限りである。


「始めたばかりなんですね」


「はい。さっきまで部長といたんですけど…」


と言いながら入口に視線を合わせてみるが部長が帰ってくる気配はない。一体どこまで行っているのだろうか。


「清水部長はてっきり美術室にいるかと思っていましたが…」


「いえ、雪が降ってきたんで先生にこの後の事を聞くって出ていって…。会いませんでしたか?」


「はい。どうやらすれ違ったみたいですね」


そう言ったセンパイに「今日はどうなるんですかね」なんて話をする。あわよくばセンパイと一緒に帰りたいものである。


「そうですね。恐らく帰りが早くなるんじゃないですかね…?」


なんてセンパイが言った時だった。急に視界に両手が映り込んでバンッ! と窓を叩いた。どうやら両手は窓の外にあるようだ。


それでも中々の迫力に私は肩をビクッ、と上げて持っていた鉛筆とスケッチブックを落としてしまった。センパイはというとそこまで表情に出さなかったものの、少し驚いたようでやや目を大きく開いていた。


「えっ、何…?」


ドンドンッ、と窓を叩く誰かの両手。これが夜で真っ暗だったら相当のホラーであろう。ただし今は放課後の人のいる美術室。2回目以降、そんなに怖くはない。それよりも指紋がつくのでやめた方がいいと思う。



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