「部長、こういう時だけですね」
「なぁんだ…。埋まらないんですね」
「埋まらない、埋まらない!」
「あっ。そういえばセンパイはどこですかね? 相談したい事があって…」
「えっ? あっ、あーっ! どこだろうね…?」
白々しくそう言うとあはは、と笑う部長だが仕事をセンパイに押し付けているのは火を見るよりも明らかであった。逆になぜこんなに分かりやすいのか教えていただきたいところでもある。
じっ、と私は部長を見つめ(睨んでいるともいう)、本当の事を言うのを待つ。数秒見つめれば(睨んでいるともいう)部長は肩を脱力してお手上げ状態になった。
「ごめんなさい…」
「今度はなんの仕事を頼んだんですか?」
「部長会議」
「それ、センパイが行ったら副部長会議になりませんか?」
「栄一くんは部長みたいなもんだし大丈夫でしょ!」
「胸を張って言う事じゃないですからね?!」
全くどうしてこんな人が部長に…、と呟きながら私は新しいスケッチブックに何を描こうかと迷う。適当に下描きをしたあとに描くものを決めるのもいいが、いい加減そろそろきちんと描くものを決めてから描く事も慣れなければ。
「まぁ優良ちゃんは決めてからが早いからいいんじゃない? ゆっくりでも」
「それ、もう提出レベルの絵を四枚描いている人が言いますか?」
「もう六枚目描いてる」
スンッ、とした急な真顔でそう言う部長に嫌になってしまう。くっそ。いつもいつもヘラヘラしているくせに!!!
「まぁ優良ちゃんは優良ちゃんのペースでいいんじゃないかな。さすがにギリギリはダメだと思うけど…」
部長はそう言うとまたサラサラとスケッチブックに提出レベルの絵を描き始める。
本当に部長は私に難しい事をスラスラとやってのけるなぁ、と思いながら私は不意に窓の方を向く。そして私は目を見開いた。
「ちょ…っ! えっ! ちょちょ! 見てくださいよ!」
ガシッ! 、と絵を描いていた部長の肩を掴んで左右に揺らした。そのせいで部長の描いていた絵がぶれてしまったみたいだがそれよりも窓の外に目を奪われていた。
「なっ、何っ! えっ?」
「雪! 降ってますよ!」
「えっ! 雪?!」
「雪! 降ってるんですよ! ほら!」
そう言って私と部長は窓に駆け寄る。
灰色の空から降る雪は驚く程に白くてふわふわとしていた。まだまばらだがきっとこれから本降りになるだろう。
「本降りになる前に解散かな…。俺、せんせーに聞いてくるね」
「了解です!」
こんな時はしっかり部長しているんだよなぁ、なんて思いながら私は部室から出ていく部長の事を見送った。
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