「部長、手は抜かないでください」


「……………え?」


瞼をパチクリして私は部長を見る。


……“描く”? 誰が? …部長が? あの、絵を描かないで有名な部長が? なんの為に? え? 謎なんだが……。


「いや、なんて顔してんのさ」


「どんな顔ですか…?」


「無様な顔」


部長は笑いながら私の席に座ってきた。私の描いていたスケッチブックの上の絵を指さして「いいじゃん」なんて言う。


「いや、これはまだまだダメで…」


「そうかな? まぁー優良ちゃんがそう思うならそうなんだろーね」


部長は若干下手くそな鼻歌を歌いながら私のスケッチブックのページを捲って白いページを出す。


「描いていーい?」


「えっ」


そんな簡単に…。部長は自分の描く絵に愛着が持てなくて描きたくなかったんじゃ…。一体どうしたんだろう…?


とは思ったが私は首を縦に振った。


「ありがと」


部長はそう言うと「鉛筆も貸ーして」と鉛筆までも借りる。それからサラサラと鉛筆でスケッチブックに絵を描いていく。


あ…っ。


クリスマスツリー、降る雪…。部長はサラサラとそれらを描いていくと最後に丸い球体でそれらを囲った。


最初こそはよくある冬の絵かと思ったがそれは違ったようだ。


──スノードームの中だ


私の語彙力じゃ表しきれないほどに美しいスノードームの中。その中心にクリスマスツリーがあり、周りにはまるで本当に降っているかのような雪。


「凄い…」


そして何よりすごいのがスケッチブックに描いた落書きとは思えないくらいくらいのクオリティだという事。ものの数分で描いたとは思えない。


「まー、こんなもんよ〜! どう? やる気出た?」


部長はニコッ、と笑うと私の顔を覗き込んできた。


いや、こんなの…。


「やる気しか出ないんですけど…!」


口角を上げてそう言う私に部長は満足そうに微笑んだ。しかし私にはひとつ疑問点があった。


「でも部長。あんなにコンクールに出す絵は描かなかったのにどうして今回、描こうと思ったんですか…?」


「あー、それね。まぁ、高校で最後のコンクールだし。大学受かっちゃったらもう描く機会もないだろうしね。記念だよ、記念」


部長はまるで受賞しないのが当たり前、のように言ってはいるが私には分かる。


私が連続入賞しているのは部長のおかげといっても過言ではない。


もし部長が私のように絵を描いていたら?

もし部長が私のように毎回コンクールに絵を出していたら?


きっと連続入賞生徒は私ではなく部長になっていただろう。それ即ち、今回のコンクールは私の連続入賞記録が途絶える可能性がある、という事だ。


「部長」


「んー?」


「手は抜かないでくださいよ」


「あはっ。言うね〜。それじゃ久々に何日かに渡って描こうかな〜」


部長はそう言って不敵に笑った。



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