「真斗、どうしたの?」


「お疲れ様でーす」


タイムカードをピッ、と押して私は事務室から出る。と同時にキッチンから私を呼ぶ声がした。


「優良っ、優良ストップ!」


「………お疲れ様でーす」


じっ、と声の主である真斗を見つめて笑顔でそう言う。


こう言っては薄情かもしれないが、本来真斗と私は同じ学校でもないのだから話す事がないのだ。だからバイトが終わった今、真斗と話す義理はない。それにセンパイがヤキモチ妬いちゃうかもしれないし…! いや、それはそれで見てみたい気もするなぁ…。


「優良冷たくない?!」


「私バイト終わったから〜。真斗はあと3時間頑張ってね〜」


「あっ。優良に応援されたら頑張れる気がする…」


「ハイハイ。ファイト、ファイト」


適当にあしらって帰ろう。そう思って真斗に手を振り、上着を着る。しかしそれで諦めないのが真斗である。タタタッ、とキッチンからやってきて私の手を掴んだ。


「真斗?」


「お菓子! お菓子の感想言うから待ってて!」


「でもセンパイとの電話が…」


「ありがとう! すぐにタイムカード押すから!」


「おい! 話聞けや!」


私の話を聞かずに真斗はそう言うと今度は手を離して事務室の方へと向かっていってしまった。


ここで帰るのもなんだか申し訳なくなってきてしまい、私はしょうがなくセンパイにメッセージを送る。内容は真斗に捕まり少し遅くなる、といったもの。センパイからすぐに返信が来て承諾してもらえた。


「優良、お待たせ。控え室行こ」


「りょーかーい」


手にお菓子をたくさん持った真斗と一緒に控え室へと向かう(というかそんなにお菓子持ってきたら他の人食べられないでしょ!)。

席に座ると早速お菓子を食べ始める真斗。そんな真斗を私は机を挟んだ向こう側から頬杖を着いて見つめる。


「これ美味しいね〜」


「まぁ人気No.1だしね。美味しいとは思うけど…」


「うん」


もぐもぐとお菓子を食べる真斗を見つめる私。え、これなんの時間?


なんて思っていると真斗の横に置いてある携帯が震えた。もちろん真斗のものだ。ブーブーッ、となる携帯。真斗はチラリ、とそちらを向いて放っておいた。


「………出ないの?」


そういえばさっきも電話に出なかったな、なんて思いながら私は聞く。


「…公衆電話からだから……」


「それは怖いね…。拒否したら?」


「拒否、した」


「………?」


真斗の言葉の意味がわからず私は首をひねった。確か、着信拒否をしたら電話もかかってこないし、通知にも残らなかったはずだ。


「まぁそんな話よりもこのお菓子美味しいからゆらも食べてみなよ!」


さっきとは打って変わって笑顔でそう言う真斗。そんな真斗からの圧に負けて私は買ってきた側にも関わらずお土産のお菓子を食べる事になった。


真斗ともぐもぐとお菓子を食べながら他愛のない話をする。そんな中で私は真斗がどうして私を呼び止めたのかが不思議でならなかった。



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