「真斗、却下です」


「……………」


私は絶賛不機嫌である。


「ねー! 聞いてんの?」


その理由は明白だろう。


「うん」


短く答える。しかし視線はあくまでも手元。無心でポテトの重量を量り、ポリ袋に詰める作業をする。


「じゃー俺がさっきなんて言ったかわかる?」


「“ねー聞いてる? ”って」


「当たってるけどそうじゃなくて!」


ダァンっ、と彼─真斗─がシンクを叩く。というかなぜバイト中でもない真斗がパイプ椅子を持ってきてキッチンにいるのだろうか。


「俺はね、優良がネズミーランドに行ったのは許してるよ! でもね! アイツとネズミーランドに行ったのが許せないの!」


「うんうん」


ポテトをポリ袋に入れる。ポリ袋を取り出す。ポテトの量を量る。…あ、多すぎた。


「だからね! その事実を消してくれない?」


「真斗。あんた今、凄い無理難題を突きつけてんの分かってる?」


「え? 写真とかお土産とか諸々消すだけで勘弁するって言ってんの」


「なんで私が下手に出てる低なんだよ」


そう言うと静まり返るキッチン。もう一人のバイト生はどうしたかというと真斗がくるなり溜まっていた部屋の掃除に向かってしまった。おのれ許さぬ。


「ていうか…、まだタイムカード切ってないのになんでここにいるの? バイトまであと20分くらいあるよね?」


「暇だったから。優良いるし話そーって思って」


「私、お金もらってバイトしてるんだけど」


「でも店長、“暇だからいいよ”って」


「店長ぉ…」


思わず頭を抱えてしまう。あの優しい店長なら本当に言いかねない。真斗のやつ、店長の優しさに漬け込んだのではないだろうか…。


「だからさ、今度俺ともネズミーランド……じゃなくてもいいからどっか行こうよ〜」


「センパイも一緒なら泣く泣く行ってもいいよ」


「うっわ、あり得ね〜…」


真斗はそう言うと明らかに嫌そうな顔をした。それでいいのだ。誰がセンパイ以外の男子と遊びに行くか。私はセンパイ一筋なんだよ。


「話し終わったなら控え室にでも行ってたら? バイトまであと20分くらいあるし」


「んー…」


真斗は曖昧な返事をしながら携帯をいじる。

なんなんだコイツ、と思いながら私は仕事に集中。カチカチと時計の秒針だけが進む音が聞こえる。その中でひっきりなしにブーッ、ブーッと電話が鳴る。


「真斗、電話鳴ってるけど…?」


「あー…、………大丈夫」


少し眉をひそめてからピッ、と電話を切る真斗。

またあれだろうか? 女絡みだろうか? もう昔来たギャルたちは来ないでほしい。切実に。


「優良」


「何?」


「どこに出かけたい? やっぱ遊園地?」


「アンタ今まで何調べてたかと思ったらそんな事調べてたのかよ。まず遊ばないし」


「酷い!!!」



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