「真斗、そんな顔されても」


「おはようございま〜す!」


そう言いながら私は店長のいる事務室に入る。今日は午前中からいるらしい店長は私の声を聞いて顔をひょっこりと出した。


「おはようございます、結城さん」


「あの店長。これ、ネズミーランドのお土産です」


私はそう言ってネズミーランドのお土産を差し出す。一番安いが量がたくさんあってクラスや部活、バイト先などの人の多い場面でのお土産によく買われるものだ(ちなみに美術部へのお土産も同じものである)。


「えっ。ネズミーランドに行ってきたの? ありがとう。みんなで食べるね」


店長は嬉しそうに笑うと私が渡したお土産をマニュアル本や今季のメニュー表などが置いてある棚の上に置いて「結城さんが買ってきてくれました。みんなでどうぞ」とメモをして近くに貼る。


「ネズミーランドなんて最近行ってないなぁ」


「そうなんですか? 店長、忙しそうですもんね…」


「そうそう。だからお菓子だけでも食べられて嬉しいよ」


「喜んでもらえたならよかったです!」


それから時間になったためピッ、とタイムカードを押す。今日のシフトで真斗は私よりも一時間遅めである。いよいよ私も一人前、と言うところなのだろうか。うーむ。嬉しい限りである。


今日バイトが一緒なのは私と店長、もう一人のバイト生だけ。夕方からは学校終わりの生徒がやってくるが、そこまで混雑はしないため三人の編成なのだろう。これが夜になったら話は別である。


今日は真斗も一時間とはいえ、いないから気が楽でいいなぁ。真斗がいたらきっとずーっとネズミーランドであった事を聞かれるからなぁ。マジなんなの…アイツ。


バイト生の人と他愛のない話をしながら仕込みをして、なかなかお客さんが来ない時間を潰していると真斗がくるまであと30分になった。


あと20分くらいできちゃうなー…、なんて思っているとガチャッ、と廊下の扉が開く。こんな中途半端な時間に誰か来たようだ。廊下から事務所へ向かって歩く音がする。


誰でしょうねー? なんて話しながらポテトの重さを量り、ポリ袋に少しずつ冷凍ポテトを入れていく。


「あ!」


声が聞こえた。一瞬でわかった。アイツである。


「優良! ネズミーランドなんかに行ったの?!」


私は恐る恐る後ろを振り返る。廊下からキッチンに顔を出している人物はやっぱりアイツ─真斗─であった。


「…………うっす」


面倒なやつが来ちゃったよ、と言いたいのを我慢して私は代わりにそう言う。


「なんで!!! 俺とも行った事ないのに!」


「何さも私がおかしい風に言ってんの! 誰が行くか!」


「え」


「そんな“傷ついた!”みたいな顔されても…」



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