「センパイ、スランプです!」
「おい誰がポンコツなんですか?」
「あれ? 俺そんな事言ったっけ〜?」
明らかに部長が言っただろ! と心の中で答えておいて口には出さない。もし出してしまったらきっと煽り合いになってしまうと思ったから。私って大人〜。
「それじゃセンパイ、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。いつから始めますか?」
「今日から、と言いたいんですが…今日はバイトが入っていて…。明日からでも大丈夫ですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます! 楽しみにしてますね!」
私はそれだけ言うと席に戻り、作品を完成し始める。といっても画集に描いてある絵を模写しているだけなのだが。
しかしこうして無心で模写をしている時が絵を描いている中で一番好きだ(もちろん全体の一番はセンパイといる時である)。
なかなか自分の思い通りに描けず、描いては消して、描いて消してをかれこれ一週間繰り返す。すると段々描いていた場所が黒ずんできてしまう。消しても描いた跡は若干残るし、それを見てしまうと“自分はまだまだだな”と痛感する。
対するセンパイはどうだろうか。
センパイならきっとバランスよく上手く描けて色の配色も本物のように塗れるのだろう。でもそんなセンパイは私の絵を“好き”と言ってくれた。
対する部長はどうだろうか。
部長ならまず模写なんてしないだろうが、部長なら一週間かからずに描けてしまうだろう。でもそんな部長は私の絵を“天才だ”と言ってくれた。
他の部活の先輩の模写をしているところを見たが本当に本物そっくりだった。まだ描いているところを見ていないが、きっと同学年の子たちだって上手だろう。
………あれ?
そしてそこまで考えてふと思った。
もしかしてこれがスランプ? と。
スランプって、確かやってもやっても上手く成績が伸びない事だよね…?
私はそんな事を思いながら手を止めた。絵を描き始めて約半年。初めてのスランプがやってきた。
スランプがやってくるくらいたくさんの絵を描いたんだ、と嬉しい半面、私は少し焦っていた。
テスト期間、勉強に煮詰まったら絵を描いていたからだ。このままでは勉強でも煮詰まり、絵にも煮詰まってしまう。両方で煮詰まってしまったら今回のテストは確実に赤点である。ちなみに前回のテストは赤点ギリギリであった(赤点もあったような気がするが忘れた)。
「センパイ…ッ! 私旅に出ます!!」
「おやおや。そこまでして勉強をしたくないんですか?」
「勉強に対する信頼ゼロじゃないですか!!」
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