「センパイ、教えてください!」
「そうなんですかね?」
「受験もありますし…。夜遅くまで勉強をしているんだと思います」
センパイがそう言ってハッ、と気づいた。
そうだ。部長は親が進める美術大学ではなく超有名大学の七夜大学の宇宙科学学科に行きたいんだった。そのために必死で勉強をしているのだろう。
「部長、受かるといいですね」
「そうですね。…さて、部活を始めましょうか」
「はい」
センパイはそう言うと席へと促した。私はそのままいつもの(センパイが見える)席に座り、部活を始める。
最初に部長から今日の予定を発表してもらう。これが唯一部長がやっている仕事といえるだろう(しかし予定のプリントを顧問の先生から受け取るのはセンパイの仕事である)。
「えっとー! 明日からテスト期間に入るから部活はなしね! ちゃんと勉強しないと補習になって、冬のコンクールに間に合わなくなる可能性があるからちゅーいする事! 以上! 今日はいつも通り各々の作品を完成させてください」
部長はプリントを横目で見ながらゆるくそう言うと席に座る。他の部員はそれから各々の作品を完成させるために動き始めた。
そんな中、私は呆然としながら宙を見つめていた。
し、しまった。完全に忘れていた。というか頭から存在が消えていた…。センパイと一緒すぎて浮かれすぎていた。やばいやばい。
冷や汗をかく、とはこの事なのか。背中が異様に寒い。冬だからではない。私は今、絶体絶命に陥っていた。
──テスト忘れてた…!
あーーーー!!!! どうするの?! テスト!!! テストで赤点とったら部活でセンパイに会えなくなるじゃん!!! そうしたらセンパイといられる時間がなくなって! センパイ不足で死んじゃうよ!!!!!
と、そこまで考えたあと。
ガタッ、と私は席を立ってセンパイの元へ行く。
「…? 優良さん?」
「センパイ…っ!」
「どうかしましたか?」
「…優良ちゃん?」
センパイだけじゃない。部長も不思議そうな声色で首を傾げた。
「べ…っ」
「“べ”?」
「…っ、勉強、を…教えて……、ください…っ」
「いや! 声ちっさ!」
私がそう言うとゲラゲラと笑い出す部長。凄く、物凄く失礼。これでも勇気を振り絞って言ったのに。傷ついた。
「えっと…、聞き間違いじゃなければ“勉強を教えてほしい”、であっていましたか?」
センパイの言葉に私は首を縦に振る。
「僕なんかで良ければ教えますよ」
さすがセンパイ。ニコッ、と笑って快く引き受けてくれた。
「あっ! ありがとうございます!!!! これでセンパイと別れるのは回避できます!!」
「すみません、なんて言いました?」
「優良ちゃんて時々ポンコツになるよね〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます