「部長、雰囲気違くないですか?」
「ぶちょー、これ部員のみんなに渡してください!」
「えっ、何これ。まさか行ってきたの?! 喧嘩は?! しなかった?!」
部長にネズミーランドで買ってきた美術部用のお土産を渡すとなぜか驚いた声色でそう言った。
なぜ驚いたのか全く分からない私は首を傾げて「しませんでしたけど…、どうしてです?」と質問を投げかける。
「いやぁ。付き合いたてのカップルは行って会話が続かなくて破局ー! みたいな話聞くからさ〜」
「縁起でもない事言わないでください、ぶち殺しますよ」
「おー、怖い怖い。でも優良ちゃんはお子様だから会話が続かない、なんてないか〜」
「余程死にたいようですね…」
私がそう言ってじりじりと一歩、二歩、と近づくと部長はそれに比例して一歩、二歩、と遠ざかる。その顔はめちゃくちゃ笑顔だ。
こいつ、楽しんでやがる…! 私とセンパイが別れるわけないじゃん! フラグ立った? 知らねぇ!!!
「この! 女顔先輩め!」
「あははッ! それ久々に言われた!」
「ふっざけんなァ!!」
ガッ! と女顔先輩の制服の裾を(破らない程度で)握って一発殴ろうと拳を振り上げた時だった。
「優良さん、落ち着いてください」
パシっ、と振り上げた手を止められた。聞こえた事のある声。というか大好きな声。
恐る恐る後ろを振り返ると少し呆れ顔で私の腕を優しめに掴んでいた。
待って、この流れだと私が一方的に暴力を奮ってる感じじゃん…!
「センパイ…ッ! これはちが…っ!」
「清水部長。あなたも優良さんをからかうのはやめてください」
センパイはため息を吐きながらまるで子供の喧嘩を収める母親のような表情でそう言って掴んでいた手を離した。我らのママ、ごめんね。
「……へぇ」
私の手を離したセンパイをじっ、と見つめる部長。その目はどこか冷めているように感じられた。しかしそれはただの一瞬ですぐに元のゆるい顔の部長に戻った。
「栄一くん。優良ちゃんの事…、名前で呼んでるんだ」
スッ、と目を細めて栄一くんがセンパイを見つめる。
「えぇ。この前の記念日デートから呼んでいますよ。清水部長はずっと名前呼びですから気にしないと思っていましたけど…」
「いや〜、栄一くんがやっと優良ちゃんの事を名前呼びしたから嬉しくって!」
にぱっ、と笑って部長は頭の裏で手を組んだ。その表情から一瞬だが冷たい表情をした人物とは到底似ても似つかなかった。
「それはそれは。お優しいんですね」
「まーね!」
部長はそう言うと笑いながらいつもの席へ向かっていった。
「なんか雰囲気違いましたね、センパイ」
「きっと疲れているんですよ」
センパイはそう言うとそっと笑った。
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