「センパイ、大切にしますね」


「これです」


センパイがリュックから取り出したものは猫の置物でもなく、シューティングゲームのおまけでもらったバルーンアートキット。その封を解いてセンパイは中からピンクのバルーンを取り出した。


それから簡易的な空気入れで十分に空気を入れる。


「ここを…こうして…」


ビ…ッ、バリッ、という独特な音を出しながらセンパイはバルーンをねじったり、寄せたりしながら着々とバルーンアートを完成させていく。


最後らへんになると私でも何を作っているのかわかった。


「………猫?」


「正解です」


センパイはそう言って完成した猫のバルーンアートを差し出した。私はそれを割らないようにそっと受け取る。普通のバルーンアートよりも一回りほど小さめだった。


「凄い…! 本当にバルーンアートだ…。凄く上手ですね…!」


「ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しいです」


上下左右回しながら細部までじっくりと見る。


「センパイ、これ貰っていいんですか?」


「はい、差し上げますよ。どうぞ受け取ってください」


「わぁ…! ありがとうございます!」


「これで寂しくないですね」


センパイがそう言って私はやっと何故センパイがこれを作ってくれたのかを理解した。


センパイ、私が寂しそうな表情をしていたから作ってくれたのか…。


「センパイ」


「なんでしょう」


「ありがとうございます…! 大切にしますね!」


「はい。でも…、少し小さめなのですぐにしぼんでしまうとは思いますが…」


「今バルーンアート、永久保存で検索していいですか?!」


「いいですけど…」


と、センパイが何かを言いかけた途中で携帯を取りだし検索する。しかし検索を押し、検索結果が出たが私の求める検索結果ではなかった。


全部保存期間や風船の寿命についての記事しか出なかった。しぼんだ際の保存の仕方ならあったがバルーンアートはしぼんでしまったらただの細長いひょろひょろの風船になってしまうため、あまり参考にならない。


「参考になる記事、なかったです…」


「でしょうね」


ふふ、とセンパイは笑って私に手を差し出した。


「?」


「さぁ、行きましょうか。まだデートは終わっていませんよ。自宅に帰るまでがデートですか」


「はいっ」


私はセンパイの手をとって出口を抜けた。出口を抜けたあとはなんだかやっぱり寂しい気もしたがまた来ようと心に決める。


それから電車に揺られ、家へと帰る。帰りは電車だったせいか、行きよりも早く感じられた。


最寄りの駅に着いたのは夜7時50分頃。冬のせいか、すっかりと暗くなった道を歩きながら私はセンパイに家まで送ってもらっていた。



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