「センパイ、心臓が…」


「はい! センパイは白馬決定です! 私は何にしようかな〜…」


センパイが白馬なら私は黒馬だろうか。それとも馬車になんて乗っちゃったりして。ネズミーのお友達も捨てがたいが、やっぱり木馬に乗りたい気がする。う〜ん…。


なんて考えていたらすぐに順番が来た。


「優良さん。手をどうぞ」


メリーゴーランドに乗り込む前にセンパイが先に行き、手を差し出してくれた。段差があるから、という事なのだろうけど、やっぱり王子様のようだ。


「あ、りがとう…ございます…」


少し照れながら私は控えめにセンパイの手を取る。


あれ、私…お姫様ってキャラじゃないのに。いいのかな…。


「どれに乗りますか?」


そうだ、まだ決めていなかったんだった。


周りの人は各々好きな木馬に乗っていく。早く乗らなければメリーゴーランドが回ってしまう。どうしよう、とアワアワ慌てている私の脇にセンパイが手を差し込んだ。


「?!」


そのまま持ち上げて私をとある木馬に乗せた。


───白馬だった


「セ、センパイ?」


横座りのまま、私はセンパイに声をかけた。それと同時にメリーゴーランドが回り始めた。センパイは笑顔で私が座っている白馬の隣に立っている。


「どうですか?」


「いや…、センパイ…乗らなくていいんですか?」


「こうした方が優良さんが言う“王子様”感がより出ると思いまして」


「……?」


「“お姫様をお城へ招待する王子様”、ですよ」


そう言われてハッ、とする。


「あの…っ」


顔を伏せて私は口を開いた。


「なんでしょう?」


「私、ちゃんとお姫様ですかね?」


そう問いかけるとセンパイはニコッ、と優しい笑いを浮かべて私の両頬を包み込んだ。それから顔を近づけて答える。


「優良さんは僕にとってちゃんとお姫様ですよ」


それから。


「……!」


唇が一瞬だけ、触れた。


「センパ…ッ」


「しー…っ」


唇に人差し指を当ててそう言うセンパイ。


なんてこった。静かに出来るわけないじゃないか。その証拠に今の私の心臓はバクバクしてるぞコラ。


「したくなったので」


何が!!! “したくなったので”、だよ!!! こっちとやら!! 心臓がバクバクしすぎて痛いんやぞ!!! ダメだ、こういうところがお姫様じゃないんだよ。いやいや、なんで私はお姫様にこだわってるんだっけ…?


グルグルと思考が回り、何を考えているのか分からなくなってきた。これがゲシュタルト崩壊!


「優良さん、ビックリしましたか?」


「ビックリ、したもなにも…。もう色々考えすぎて全部がゲシュタルト崩壊しましたよ…」


「ふふっ。それは愉快ですね」


「他人事のように…っ!」


「他人事なので」



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