「センパイ、常識ですよ?」
「ふふ、失礼しました」
センパイはいたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。対する私はいたずらに引っかかった大人のような少し驚いたような、ドキドキしたような、そんな表情をする。
「センパイの行動は冗談なのか本気なのか時々分からなくなります…」
歩みを再開してそんな事を言いながらメリーゴーランドへと向かう。
「そうでしょうか?」
「さっきのは私をからかっているのか、それとも本気なのか…。全く分かりませんね…」
なんて言ってみるとセンパイはクスリ、と笑った。
「本気でしたよ」
「………え」
パタっ、と歩みを止める。一歩、二歩先でセンパイも止まる。そして振り返った。
背後に夜のネズミーランドの景色を携えるセンパイ。キラキラと輝いていて私にとってそれはとても美しいものだと、そう思えた。
「優良さんが止めなければ、していましたよ。…キス」
「な……ッ、なんでそんな事言うんですかッッ!」
ぶわぁぁあ、と顔が熱くなる。
あー…、顔は合わせないでおこう。そのまま横を通り過ぎて…、そうそう。このままじゃ、センパイにからかわれちゃ……。
センパイの横を通った際に腕を引かれる。そのまま私の体は後ろへ下がってストンっ、とセンパイの胸に収まった。後ろから抱きしめられていると言ったら過言かもしれないが、背中から伝わるセンパイの熱は何だかいつもよりも緊張してしまう。
「セセ、センパイッ?」
声が上ずってしまった。恥ずかしい。
しかしそんな私を決して笑う事なくセンパイは顔を見合せた。
「ふふ。そんな反応されると思っていなかったので」
「そ、“そんな反応”って…?」
「顔、真っ赤ですよ」
やっぱり…!
そう指摘されると余計に赤くなってしまうのが私である。慌ててセンパイから顔を逸らす。
「おや。逸らしてしまうんですか?」
「逸らしてしまうんです! ほら、行きますよ!」
センパイの手を繋いでメリーゴーランドへと向かう。その道中、センパイは何が面白いのか分からないがずっと笑っていた。きっと私の照れ隠しが雑すぎて笑っていたのだろう。
だって、こういうやり方しか知らないんだから、しょうがない。
「優良さん、優良さん」
「なんですか?」
メリーゴーランドに着き、並び始めて数分。センパイが話しかけてきた。
「どの木馬に乗りたいですか?」
そう言ってセンパイが指さす先には色々な種類の木馬があった。
白馬や黒馬はもちろんの事。ユニコーン、馬車、ネズミーのお友達まであった。
「そうですね…。私の乗る木馬は置いておいて。センパイは白馬ですね」
「なぜですか?」
「え? 王子様だからですよ?」
「そんな“当たり前”みたいに言われても…」
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