「センパイ、大胆すぎます」


「優良さん、手をどうぞ」


センパイは。


センパイは、私の事を“優良さん”と呼ぶようになった。それはついさっきの出来事で、その時は気にしていなかった(というかそれよりもプレゼントを渡す事に意識向いていた)が、今となれば少し恥ずかしい。


「あの…」


「はい」


席を座っている私に手を差し出しているセンパイに声をかける。しかしそれ以上の言葉は出なかった。センパイが私の事を名前呼びするなら私もセンパイの事を名前呼びしようとしたが、やっぱり無理だった。


だってだって!! センパイの名前、“栄一”だよ?!?! めちゃ素敵な名前すぎて呼べないよ!! え? 逆に私なんかが呼んでいいんすか?!


「優良さん?」


「え…っ、ええ…っ」


「………?」


「えい…っ、えいい…っ」


「……“えい”?」


「えい…っ、永遠に…っ! 一緒ですからね!!!」


あ。


「そうですね、永遠にお願いします」


何やってんの私!! これじゃ、クソデカ感情持ちの女みたいになっちゃったじゃん!! これ以上は変な事言わないように! って思ってたのにさ!!! これじゃ私の愛が重いって思われちゃう!! (もう思われている)


「……うぅ…っ」


「……優良さん? 大丈夫ですか?」


顔を覆ってしくしくと泣く私の耳にセンパイの心配する声がする。センパイ、他人からしたらくっだらない事(だがしかし私にとっては重要な事)で泣いているんで気にしないでください。


「ぐすん…、大丈夫です…。ちょっと自分に対して呆れているだけなので…」


「そうなんですか…?」


「はい…っ」


私、周りから変人だのストーカーだの言われていたから気づかなかったけど、意外にもピュアなのかもしれない…。


なんて的はずれな事を思いながら私はセンパイと最後のアトラクション、メリーゴーランドへと向かう。


その道中もセンパイの事を名前呼びしようと試みたがどうしても「えいっ、ええ、いっ」と掛け声をしている人になってしまった。恥ずかしい。


どうやら私にとって、センパイの事を名前で呼ぶのはかなりハードルが高いらしい。


あれおかしいな、学園祭の時は言えたんだけどな。あれかな? 学園祭マジックかな?だとしたら記念日デートマジックもかかっていいような気がするんだけどな。うーん。


「センパイ」


「なんですか?」


「記念日デートマジック、かけてもらっていいですか?」


「ふふっ。分かりました。それでは目を閉じてください」


「ちょちょ!! ここ人いるんで! センパイ! 両腕掴まないでください!!」


「おや。残念です。そういう事ではなかったんですか?」


「センパイ、大胆すぎますって…っ」



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