「センパイ、許します」


「最後まで楽しむんですか?」


「逆に最後まで楽しまないんですか?」


「僕は7時頃に帰る予定でしたが…」


困ったようにそう言って笑うセンパイ。


待って?! 話が違う!!! 最後までいるんじゃないんですか?! ネズミーランドに来たら最後までいるのが礼儀じゃないんですか?! (違います)


と、心の中では早口で捲し立てていたが現実はそうもいかない。少し落ち着いて私は再度センパイに異議申し立てをする。


「センパイ! センパイは知らないでしょうが、結城家ではネズミーランドに来たら最後までいるというのが家訓でして…」


「なるほど」


「という事で最後までいませんか?」


「ダメです」


ニッコリとした笑顔で拒否されてしまった。くっそう……。


「優良さんのお母さんもきっと待っていますよ」


タタタッ、と携帯でお母さんにメッセージを打ち込む。そして送信。


「大丈夫です! “帰り遅くなる”ってメッセージしておきました!」


「それでもダメです」


「私! 今日はセンパイと泊まるって言ってきましたよ!」


「ついさっき“遅くなる”とお母さんに連絡したんじゃなかったんですか?」


「うっ」


図星である。そもそも今日泊まるなんて言ってないし、そんな用意もない。センパイには全てお見通しのようだ。


それでも私はセンパイと一緒にいたい。


「優良さん」


「な、なんでしょうか…」


急にセンパイが真剣な声色で話し始めた。一体なんなのだろうか。


「遅くなるとお母さんが心配しますし、僕も心配します。なので今日のところは7時に帰りましょう?」


「………でも…」


お母さんだけじゃない。センパイも心配してしまう。


うーん、うーん…、と何度か悩んだあと、私はコクリ、と頭を縦に振った。苦渋の決断である。


「分かりました…、残念ですけど…」


と、唇を尖らせながらそう言うとセンパイは「ありがとうございます」と笑ってお礼を言った。


お母さんが心配しようが私には関係ないのだけれど、センパイが心配してしまうのなら話は別であるから。しょうがない。


「それではあと少しだけですが、楽しみましょうか」


「はい…! あっ、センパイ。私行きたいところがあって…」


「いいですよ、行きましょうか」


「やった! あのですね、メリーゴーランドに乗りたくて!」


「分かりました…。ふふっ」


センパイは何がおかしいのか、楽しそうにふふっ、と笑った。


「センパイ?」


「いえ、失礼。可愛らしいな、と思いまして」


「………それは“子供らしくて”可愛いって意味でしょうか?」


「おや。よく分かりましたね」


「なんと失礼な!!! でもセンパイなんで許しちゃいます!」


「センパイで良かったです、ふふっ」



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