「センパイ、大好きなんです」
「え?」
ドキッ、とした。まさか覚えているなんて思ってもいなかった。心臓が心拍数をあげる。
だって。
それは、クマのキーホルダーは、
もうずっと前の話だから。
「センパイ、覚えていたんですか……?」
「覚えているも何も…」
センパイはさも当たり前かのようにそう言ってリュックの中からあるものを取り出した。
「あ…っ」
思わず声が出てしまった。
センパイがリュックから取り出したもの。それはずっと前、センパイが付き合った後に(半ば無理やり)私からセンパイに渡したプレゼントの。
「クマのキーホルダー…」
まさか大切にしてもらっているなんて思わなかった。
付き合ったとはいえ、(恥ずかしいのか)少し素っ気なさそうに受け取っていたから。てっきりセンパイは手作りとか、そういう類が苦手なんだと思っていた。
「センパイ、なんでそれを…」
──今日持っているんですか?
そう聞くとたった一言。「記念日ですから」と答えてくれた。
センパイが持っているクマのキーホルダーをよく見ると若干私の縫い付けが甘かった部分が解れてしまっていたりしていたようだ。しかし糸の部分を見ると少し色の違う糸があるため、きっとセンパイが縫い直してくれたのだろう。
ずっと大切にしてくれていたのが伝わってくる。
「センパイ…、ありがとうございます…。こんな拙作を持っていてくれて…」
「そんな事ないですよ」
センパイはそう言ってクマのキーホルダーを優しく手で包み込んだ。
「僕にとっては大切な作品です」
──大切な作品
そう言ってもらえただけで私は十分に嬉しかった。センパイのために、少し重いって思われてもいいから作ったクマのキーホルダー。
こんなに喜んでもらえていたなんて。
「受け取って貰えた時、素っ気なかったので心配だったんですが…、喜んでもらえて良かったです…!」
「あの時はすみませんでした。誰かにこういったプレゼントを貰うのが初めてだったので。つい素っ気ない態度をとってしまったんです。…ダメですね、優良さんを不安にさせてしまって」
「そんな事ないです! 私、センパイに素っ気ない態度とられてもそんなに気にしません! むしろ嬉しいっていうか…! 私にしかしない態度は嬉しいです!!」
私はグイッ、と顔を近づけてそう言った。顔が近いがそんな事は気にしない。だって、それより伝えたい事があるから。
「センパイは優しいです。私はそこも大好きで…。でも、私にしかしない素っ気ない態度とか、Hey! Siriモードのセンパイも、どんなセンパイでも大好きなんです…!」
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