「センパイ、ありがとうございます」
「優良さん」
センパイに、呼ばれた。
センパイを見ていると恥ずかしくて、逆さ城に視線を移した時だった。
───名前を、呼ばれた
ハッ、とセンパイの方を振り返ると少し恥ずかしそうに頬をかきながら私にあるものを差し出していた。有名宝石店の紙袋だった。
「………!」
「優良さんに。プレゼント、です」
思わず息を飲んだ。
見た事はあったその袋は、見た事しかなくて。人生でまず触れることなんてないと思っていた。ましてや、今日触れられるなんて思ってもいなかった。
「どうぞ」なんて言って差し出してきたその袋をそのまま返しそうなくらい動揺していて、いつもなら馬鹿みたいなテンションで喜ぶはずなのに、今は涙目でフルフルと頭を振るだけだった。声が出ない。
「え……っ、センパイ? なんで…、え?」
やっと口から出た言葉は疑問のものだった。
そんな私にセンパイは微笑みながらしっかりと紙袋の持ち手を握らせた。本来なら冬で冷たいはずのセンパイの手は少し暖かかった。緊張しているのだろうか。
「プレゼントです」
「それはさっき言われたので知ってます…」
「ふふ。喜んでいただけましたか?」
「喜ぶも何も…。びっくりしすぎて…」
「そのようですね」
センパイは「開けてみてください」とそう言った。私は首を縦に振って震えるその手で紙袋を膝の上に置き、中からラッピングされた箱を取りだした。
手が震えてなかなか綺麗に開けられないが試行錯誤の末、何とか開けられた。そして未だに震える手で上の箱を開ける。
「これ……」
中に入っていたのはネックレスだった。
シンプルなシルバーのネックレス。デコルテに沿って輝いている。どの服にも合いそうなそのネックレスは今の私にとってどんなネックレスよりも高価だった。
「綺麗…」
「優良さん、付けますよ」
「お願いしますっ」
私は箱からネックレスを取り出してセンパイに渡す。それから後ろを向いて髪をあげる。
それから間もなくしてセンパイの腕が前に回ってきてそのままネックレスを付ける。
「できましたよ」
私はセンパイの方を振り返り、自身の胸元に手を当てる。
「センパイ、似合ってますか?」
「はい。似合ってます。…これにして良かったです」
そう言って微笑むセンパイに私の口角は緩む。
「センパイ、ありがとうございます」
「いえ。受け取ってもらえて良かったです」
「センパイからのものならなんでも受け取りますよ」
「おや? いつもの勢いとは少し違いますね」
「そ、そりゃ…、緊張してますもん…」
「ふふ、新鮮ですね」
「そうですね」
なんて言いながら、私もセンパイにプレゼントを渡さないと! とギュッ、と拳を握りしめた。
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