「センパイ、ありがとうございます!」


「結城さん、これなんてどうですか?」


センパイはそう言って見本として飾ってあったブランケットを私に広げて見せた。ネズミーやネズムー、ほかの仲間たちが描かれていておそらく一番人気のあるものだ。


しかし私はそんな事より(“そんな事より”なんて言ってはいけないのかもしれないが)ある事が気がかりだった。


「……………」


「…?結城さん?」


た………っ、たっけぇええええ………! えっ、高すぎじゃない?!一枚4000円って…! いや、ネズミーランドのブランド背負ったらこのくらいするのは分かるけど…。え? もしかしなくてもセンパイ、これ買ってくれるの?!


「結城さん?」


「セ、センパイ…」


「なんですか? 違う柄の方が好みでしたか?」


「いえ…。私、こっちがいいな〜って思いまして…」


私がそう言って指さしたのはネズミーの顔のファンキャップ。これなら頭だけだが温かくなるだろう。少なくともカチューシャよりは(お値段も半額以下だし)マシである。


しかしそうセンパイに言うとセンパイは首を横に振った。


「ダメです。これからもっと寒くなるんですから。ファンキャップだけではとてもではないですが暖かくなりません」


「えぇ…、でも…」


「結城さんの事を思っての事なので。どれがいいですか?」


センパイは有無を言わさぬ笑顔でそう聞いた。両手で持っているブランケットが異彩を放っている。


こ、これは拒否しづらい…。


「それじゃ…、今センパイが持っているそのブランケットで…」


「はい、分かりました」


う〜ん、としばらく悩んだ末、私はセンパイの持っているブランケットにする事に決めた。それと同時にこのブランケットは本気で家宝にしようと、思った。


センパイはそのままブランケットを元あった場所に戻して、見本ではない新しいブランケットを手に取り、そのままレジへと向かった。そんなセンパイの隣を歩きながら私は心の中で「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も唱えた(もはやお経)。


「はい、どうぞ」


お店から出るとセンパイはそう言ってブランケットの入った袋を差し出した。私はそれを受け取り、抱きしめる。


センパイが買ってくれた高かったブランケット…。私が寒いって言ったから買ってくれたブランケット…。これは絶対に汚さない…。


そんな事を思いながら目を閉じていたのが不思議だったのか、センパイの少し困ったような声色が聞こえた。


「結城さん?何をして…」


「待ってください。今、喜びを噛み締めているんですから」


「噛み締めるほどのものでもないと思いますが…」



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