「センパイ、そんな目で見ないでください!」


「し、失礼しました…っ」


まだ笑いがおさまっていないセンパイは少し申し訳なさそうにそう言うと深く深呼吸をした。二、三度深呼吸をするともう笑いはおさまったようでセンパイはこちらに笑顔を向けてきた。


「すみませんでした」


「全く…」


私がジト目でセンパイを見つめるとセンパイはとんでもない事を口にした。


「僕と結城さんの子供も同じような事を言うのか、と思ったら親子揃って『クリスマス感ー!』と喜んでいる図が見えてしまいまして…」


「そりゃ…、親子揃って船を見ながら『クリスマス感ー!』なんて言っていたら面白いですけど……」


と、そこまで言ってハッ、と気づく。


え? センパイ、今…なんて言った? 聞き間違いなんかじゃない。


── 「僕と結城さんの子供も同じような事を言うのか、と思ったら親子揃って『クリスマス感ー!』と喜んでいる図が見えてしまいまして…」


── 「僕と結城さんの子供も同じような事を…」


── 「僕と結城さんの子供も…」


僕と!!! 結城さんの!!! 子供も!!! えっっっ?!?! は?!?! それってつまり…!!!


「け…っ!」


「……“け”?」


「いえなんでもないです!!!」


私は思わず口をついてでてしまった言葉を咄嗟に「なんでもない」と言って誤魔化し、センパイから視線を(不自然にならないように)外す。


絶賛今の私の頭の中は“結婚”の二文字でいっぱいだ。その二文字がランランっとスキップをしながら脳内を回るからタチが悪い。


センパイも何気なく言った言葉だろうし、気にする事はないのだろう。むしろ気にしてギクシャクする方がダメだろう。


しかし好きな人の口から出た“結婚”を匂わせる言葉。相手は何気なかったかもしれないが私はそうはいかない!!!


すげぇ気になる!!!!


「結城さん」


「はぁい! なんでしょ!!」


あぁ、変な声色が出てしまった。


「意識しましたか?」


「…………はい?」


「“結婚”」


「……え?」


まるでセンパイは内緒話をするかのように私の耳元でそう言うとニコッ、と笑った。


きっとこの人は気づいていたのだ。気づいていて、気づいていないフリをしていたのだ。


「セ…ッ!」


「?」


「センパイッッ!!」


「なんでしょうか」


「セッ! セッ【自主規制】もしていないのに!!! 恥ずかしいですよっっっ!!!!」


そう言って両頬を抑えて恥ずかしそうに顔を左右に振る私をまるで生ゴミを見るかのような目で見つめるセンパイ。


あれ? 失言しちゃった??


「結城さんが極度に照れた事はわかりました」


スンッ、と光を灯していない目でそう言ったセンパイは笑う事もなく視線を船に戻す。


「ちょちょ!! すみませんって! 私が悪かったです!! だからそんな目で見ないでくださいっっ!!!」

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