「センパイ、待ってください」
「優良と彼氏さんじゃないですか〜」
わざとらしくそう言いながら数人の女子生徒が作った輪の中心から抜け出してこちらへ歩み寄る真斗。
その表情がいい感じににこやかで、そしてとてつもなくムカつく。
「おやおや。誰かと思えば真斗さんではないですか」
それに対抗するかのようにセンパイもにこやかな笑顔を浮かべる。
きっと真斗はセンパイの事が嫌いだし、センパイも真斗の事はよく思っていない(というか嫌いだ)と思う。
そんな二人が再び出会ってしまったら、それはもう地獄が始まるゴングが鳴っちゃうし、なんなら戦争だから!!!
やばい、どうしよう、と思いながら私はこの状況を打破しようと口を開く。
「あ、あははー。真斗、こんな所で奇遇だね。誰か待って」
「優良待ってた。どうせ行くところ一緒だろ?」
「“一緒”、とはどういう事でしょう?」
「あれ? 優良、まだ彼氏さんに言ってなかったんだ。あの事」
ニヤニヤと笑う真斗に鬼のような笑顔を浮かべるセンパイ。
選択肢をミスってしまったのが丸分かりである。
「真斗、そんな意味深な感じに言わないで」
そう真顔で言うと真斗は「はいはい。優良は怖いね」と言って肩を竦めた。
本当は怖いなんて思っていないくせに。つか、センパイを前にした真斗の方がある意味怖いし。
「センパイ、あのですね…」
「大丈夫ですよ、結城さん」
バイトの話をしようと口を開いた私にセンパイはいつもの優しい笑顔を浮かべてくれた。
しかし今はその笑顔が少し怖い。
「センパイ…?」
「すみません。少し予定を思い出したので結城さんは真斗さんに送り届けてもらってもよろしいですか?」
「えっ、でもさっきは“一緒に帰れる”って…」
「忘れていたもので。それでは失礼します」
「ちょ…っ」
私が声をかけるがセンパイはその声に反応せずにスタスタと校舎の方へと戻っていってしまった。
急いで追いかけようと動いた私の手首を真斗は掴む。
「ちょっと、真斗! 離してよ!」
「今は行かない方がいいよ」
「なんで! センパイの誤解を解かなきゃ…!」
「バイトあるでしょ」
「うっ」
「彼氏も伝えられたところで“自分のせいで遅れた”って思うと思うけど」
「………メッセージしとく」
「うん。それがいいと思う」
手首を離した真斗にそう言って私は急いで携帯を出してメッセージを打つ。
文面だけで伝えるのは私が嫌なため電話で。
《センパイ、今夜電話してもいいですか?》
大丈夫。きっと大丈夫。
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