「真斗、気のせいだよ」
「真斗はさ」
私は洗い物を続けながら真斗との会話を続ける。
「ん?」
「なんで私なの?」
「え?」
全ての洗い物が終わり、乾燥機の電源を入れて私は真斗の方を見る。真斗は瞬きをして驚いた表情を浮かべていた。
「いや、だって。学校には他にも可愛い子とかいるでしょ」
「優良も十分だと思うけど」
「だろうね」
「ごめん、さっきのなしで」
「おい」
少しの沈黙のあと、真斗は少し頬を赤らめて呟くように言った。
「だってさ」
「うん」
「初恋、だったから」
そう言った真斗の顔は段々と赤くなっていき、しまいには耳まで真っ赤になっていた。
それに倣うように私の顔まで熱くなってきてしまう。
聞いたのがお皿を洗っていない時でよかった。もし洗っていた時だったならきっと今頃お皿を割ってしまっていただろう。
「ちょ…っ、なんで優良が照れるの!」
私の表情を見た真斗が慌てたようにそう聞く。
「照れ…! 照れてないよ! 照れてんのそっちでしょ?!」
「俺は照れてるよ?! 何か問題ある?!」
「ある! 大いにあるよ! 初耳だし!」
「言ってないからね!」
「言えよ!」
「だって……っ!」
真斗がそう言いかけて、口を閉じた。
私から視線をふいっ、と外してそっぽを向きながら先程と同じように呟くように言葉を口にした。
「知ってる、かと…思ってた」
「……いや、知らなかった」
というより気づかなかった。
真斗が私に向ける感情は“束縛”であって“恋”や“愛”などと言ったキラキラしたものではないと思っていたからだ。
───“束縛”するのは“愛”しているから
なんて思う人がいると思うが、当時の私には“愛故の束縛”とは思えなかった。それくらいに真斗の束縛は強く、強く、私を締めつけていたのだ。
「そっか…」
真斗は困ったように眉を顰めると私の方をしっかりと見てきた。
「だからさ、優良」
「…何?」
「俺、本気だから…。それだけは分かっていてほしい」
「うん」
「それでいつか彼氏と別れたら俺と付き合ってほしい」
「センパイと別れる予定はないので結婚式に呼んであげるね」
「友人挨拶である事ない事言ってやる」
「前言撤回。絶対に呼ばない」
「冗談だって」
「冗談に聞こえないんだよなぁ…」
いつの間にか治まった顔の熱。
その日はあまり忙しくなく、私たちは店長にバレないように、なんて笑いながら今まで離れていた時間を取り戻すかのように話に耽た。
「なんだか優良といい感じに距離が縮まって付き合えそうな気がする!」
「それ気のせいだと思うよ」
「え」
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