「真斗、それは無理」
「待って?! 重っ!!」
ボックスに入っているコップやらお皿やらが思っていたよりも重く、「よいしょ」と声を上げてなんとか持ち上げる。
「こんなんやってたら腰が死ぬよ…」
いや、それよりも筋肉痛か…。
なんて思いながら私はよろよろとキッチンへと戻る。真斗が待っている、と思っていたが真斗はいなく、キッチンから見えるレジの防犯カメラの映像に映っていた。
「私もレジとかやるのかな…」
真斗がいたら「やるに決まってるでしょ」なんて言われるだろう。
私はそんな事を呟きながら空いているボックスを片手に次は8号室へと向かった。
8号室はドリンクバーだけのようでボックスの中は軽く、苦戦せずに済んだ。
8号室の掃除が終わり、私はインカムで部屋番号を言い、掃除が終わった事を伝えるとすぐに真斗の「了解」の声が聞こえた。
それから5号室同様にボックスをキッチンへと持ち帰り、洗い物を開始する。チラリ、と後ろにある防犯カメラを見ると真斗はまだ受付をしているようだ。
時刻は14時半を過ぎようとしているところだ。そろそろお客さんが入る時間帯なのだろう。
ゴミはゴミ箱に捨て、カチャカチャと洗い物をしていると真斗の声が聞こえた。
「一気に4組も入ったんだけど…。片付けめんどいなぁ…」
「お疲れ様〜」
「優良こそ掃除ありがと」
「どーいたしまして」
「あっ。さっきの新婚みたいじゃなかった? どう? 付き合わない?」
「付き合いません」
真斗は「ちぇー」と言うと乾いたコップやお皿を棚へと戻していく。
いやいや。何が「ちぇー」、だ。私はセンパイと結婚る予定なんです!!!
と、ここで叫んでしまうと迷惑なため、心の中で叫びながら私は洗い物に専念する。
「…………そういえばさ」
「ん?」
お皿の片付けが終わり、暇そうにメニューを読んでいた真斗に私は話しかける。
「さっき、なんて言おうとしてたの?」
「………“さっき”?」
「ほら。“それに”って、言いかけたじゃん」
「あぁ。それね」
真斗はメニューを仕舞うとぐぐぅっ、と両手を組んで上に伸び、答えた。
「“優良と話せて楽しいから”」
「え?」
「ほら俺、優良に避けられてたから」
「あはは」と少し悲しそうな表情で笑う真斗。
「……………真斗……」
真斗は以前、今とは思えないくらい機嫌の振り幅が大きすぎ、ちょっとした事で機嫌が悪くなったり良くなったりしていた。
中学生からそれが露見に現れ始め、私は真斗と距離を起き始めたのだ。
「まぁ俺が悪かったんだけどさ」
真斗はそう言うと困ったように笑った。そんな真斗に向けて私は謝罪を口にした。
「真斗も悪かったかもしれないけど…。私も悪かったよ。…もっとちゃんと話し合えばよかったね」
「……………。……ありがとね、優良」
「うん」
「少し距離も近づいた事だし、俺ら付き合おうよ」
「うん。ごめん。それは無理」
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