「真斗、大変だったんだね…」


「さいっっあく…。すぐに貰えないなんて……」


私はため息を吐きながらシンクにあるお皿を洗い、片付ける。そしてそれを笑いながら見ている真斗。


手伝えよ。

なんて幼なじみ言えどバイトの先輩には言えるはずもなく。


「あはは、すぐ貰えるわけないじゃ〜ん。ウケる。俺ならプレゼントする側だからバイトなんてさせないけどね〜」


真斗はすると笑いながらそう言いながら近づき、私の横に立ってお皿の片付けを手伝う。


「どう? 俺と付き合わない?」


ズイッ、と顔を近づけてそんなら冗談を言う真斗。おい、冗談は性格だけにしてくれよ、この気まま野郎。


「私が! センパイに! 自主的に! プレゼントを! あげたいの!!」


「あ〜ぁ。優良のガードはほんっとに固い、固い」


やれやれ、と言いたげに肩を上げて背伸びをして私が仕舞おうとしたお皿を流れるように取り、そのまま仕舞う。


「あ、ありがとう」


「どーいたしまして。付き合う?」


「付き合わない」


「冷た」


以前の真斗なら私が間髪入れずに拒否するとたちまち機嫌が悪くなっていたはずだが、今の真斗にそんな気配はない。


やっぱり文化祭の一件で少し変わったのだろう。


「……………真斗は、変わったね」


「優二のおかげだよ」


「え? 長瀬クン?」


突然長瀬クンの名前が出てきて私は首を傾げた。

そういえば私がセンパイと服を取りに行った際に二人きりだったんだ、と思い出す。


その時に何か話でもしたのかな。


「優二があの時に色々と助言してくれたんだよ」


「へぇ〜。あの長瀬クンがね…」


意外、というか。私には暴言ばかり吐くあのブラコンな長瀬クンが真斗に助言をするなんて。

意外と面倒見がいいところもあるんだな、とここにはいない長瀬クンに感心する。


「はいはい。この話はこれで終わり。次の話題は仕事ね」


「はぁい」


「どこまで教えてもらったの?」


「一応清掃だけ。あと提供の触りだけ」


「おけ。それじゃ詳しく提供について教えるね」


真斗はトレンチを取るとそこに棚から取ったビールジョッキを目一杯のせる。もう本当に何個のせるの?! ってくらいにのせる。

目一杯にのせ終わった後に真斗は器用にそれを片手で持ち上げる。


「すご…」


「これくらい二次会に来た酔っぱらいがサラリーマンがバカ…んんっ。沢山頼むから慣れた方がいいよ」


「今、“バカ”って言ったよね?」


「いやいや。確かにクソみたいに頼むけど。クソみたいに、ね」


そう言った真斗の目は死んだ魚のような目をしていた。以前に何かあったのだろうか…。深くは聞かないでおこう。…可愛そうに。




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