「センパイ、私頑張れません」


「その子がそろそろ来ると思うんだけど…」


店長はそう言って時計を見る。14時10分前だ。

今日は休日のお昼からバイトに入っているため私は13時からだったが、その子は14時からなのだろう。


しまった。初バイトで緊張と楽しみで他の人の名前見るの忘れてたわ…。優しい人だといいな…。


そんな事を思っていると従業員控え室のドアが開く音がした。


「おはようございま〜す」


「え」


聞いた事のある低い声。そしてちらっと見えた染めた髪にピアス。


……………もしかしなくても彼かもしれない。


そしてそれは店長の言葉によって確定された。


「あぁ、おはようございます。今日もよろしくね、音無おとなしさん」


「は〜い」


間違いない。この声に少し気だるそうな声色。そして“音無”という名字。


「そうだ。音無さん。今日から入ったバイトの子がいて…、その子に色々と教えてあげてくれないかな?」


驚きのあまり固まる私に店長は話を進めるべく従業員控え室へと足を運んだ。もちろん私はその場で固まってしまっている。


「いいですけど…。バイトの子?」


「うん。結城さんって言うんだけど…」


「結城さん…?」


そう声が聞こえてひょっこりと音無さん、いいや。真斗まなとがこちらを伺ってきた。


「え?」


「あ…はは〜〜。よろしくお願いします…。音無サン」


私はできるだけ笑顔を作り、真斗に小さく手を振る。


「優良じゃん」


「え? 二人とも知り合い?」


「幼なじみです」


「へぇ〜。それじゃ安心だね。音無くん、あとはよろしくお願いしてもいいかな?」


「はい」


真斗がそう言うと店長は店長の仕事があるとかでパソコンの置いてある事務室へと戻っていった。


残ったのは私と真斗の二人だけ。少しだけ気まずい空気が流れる。


それもそうだ。最後にあったのは文化祭初日。私が感じていた真斗への恐怖心は消えたものの、やはり少しだけわだかまりは残ってしまっている。


そんな中、私は店長が「いつでも飲んでいいから」、と言っていた水をコップに注ぎ、とりあえず飲む。

そんな私に真斗が話しかけてきた。


「久しぶり」


「ひ、久しぶり」


「彼氏と別れた?」


「ブッ」


おいおい!! 久々に会って第一声がそれかよ!! 危うく吹くところだったでしょ!!! (※既に吹いています)


「え、別れた?」


嬉々としてそう聞く真斗に首をブンブンと振る。


「まさか」


「は? つまんな」


言葉だけ聞くと以前と同じような言葉だが声色は穏やかだった。


真斗もあれから変わってくれたようで少し嬉しくなった。


「それじゃバイトもデート代稼ぎとか?」


「うん。12月に記念日あるからそのプレゼント代を稼ごうかなって」


「え? 12月? 記念日?」


「う、うん…。そうだけど…」


「優良の給料入るの12月の終わりだよ?」


「え? 今月じゃなくて?」


「初任給はバイト入った次の月にまとめて貰えるんだよ。知らなかったの?」


「マジかよ。辞めます」


「辞めんなよ」



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