「センパイ、私バイト頑張ります!」


「面接の際はありがとうございました。今日からよろしくお願いします」


「うん。こちらこそよろしくね」


「はい!」


えみにバイトをする宣言をして一週間。私は家の近くのカラオケ店で働く事になっていた。


センパイとの記念日まで三週間とちょっと。月末までは一週間しかないが少しはペアリングの足しになるだろう。それでも足りない分はママにわけを話してお小遣いを前借りする予定だ。


「いや〜。結城さんが入ってくれて助かったよ。ちょうどこの前やめた子がいてね」


「こちらこそ。すぐにシフトに入れていただいて…。ありがとうございます」


店長はそうお礼を言う私に「それじゃ色々説明するね」と言い、仕事の説明をし始めた。


まだ28歳だという店長はカーティと同い歳とは思えないほど大人びていて、優しい。なんでも大学卒業してここに就職したらしい。


ニコッ、と笑う時に出るエクボが可愛い店長である。


「しばらくは部屋の掃除をしてもらう事になるんだけど、部屋の掃除が終わったら渡されたインカムで“何号室終わりました”って部屋番号教えてね」


そう言いながら店長はキッチンにある棚から私の肩ほどの大きさほどある長方形のボックスを手に取った。棚には数個同じものがあり、それが清掃には必要なのだろう。


「これはボックスって言って、清掃時にお客さんが頼んで飲み終わったコップとかを入れる。それと清掃時に必要な物はここにあるから」


ボックスと同じ棚に三つ小さなプラスチックのバスケットがあり、そこにはタオルやヘアスプレーのようなものが何個かある。


「試しに俺がやってみるから見ててね」


「分かりました」


店長はそう言うとフロントに出て空き部屋などが映されている画面から掃除する部屋を確認するとその部屋へと向かった。


「まず扉は換気も兼ねて開けておく事」


「はい」


店長が一つ一つ言う言葉をこれまた一つ一つ持ってきていた小さいメモ帳に書く。


掃除の流れを説明し終わった時にはメモ帳には隙間なく文字が書かれていた。

これを全部覚えるのか、と少し憂鬱になっていたが、店長は「ゆっくりでいいからね」と優しい言葉をかけてくれたおかげで少し気分が楽になった。


「それからあとは提供かな…。このトレンチにドリンクやフードをのせて持っていってもらうんだけど…。最初は難しいから暇な時に練習してもらう事になるかな」


掃除が終わり、店長とキッチンへ戻った際にそう言われた。


「トレンチ…?」


「おぼんの事だよ。ここにあるから棚にあるコップとかをのせて練習しててね」


そう言って店長は棚に吊り下げられている縦長のカゴに入っているおぼんもといトレンチを指さした。


「それじゃこれからの事はこれから今からくるバイトの子に教えてもらう事になるから」


「わかりました!」


「優良ちゃんと同い歳だし、仲良くできると思うよ」


店長はそう言って笑う。


同い年の子か…。どんな子なのだろうか。



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