「センパイ、お見通しですね」


「───以上が本日お知らせする内容となります。質問点などはありませんか?」


本来なら部長がやるはずの帰りの報告会をなぜか副部長であるセンパイが執り行う。部長はなぜかあれから帰ってきていない。

部長が座る席に乱雑にバッグが置かれている事から帰ってくるのだとは思うのだが。


「それでは本日はこれで終了とさせていただきます。お疲れ様でした」


センパイの素晴らしい報告会を終え、私はバッグを片手にセンパイの元へと駆け寄る。


「センパイ! 帰りましょう!」


「えぇ。そのつもりだったんですが…」


チラリ、とセンパイは横にある部長のバッグを見る。


「清水部長を待っていないといけなくなりまして」


「あの女顔先輩め…。どれだけ私とセンパイの仲を邪魔すればいいんだ…コノヤロウ…」


「結城さんも良かったら一緒に待ちますか?」


「もちろんです!」


私はそう言って帰っていく部員を横目に本来は部長が座るべき席に堂々と腰を落とした。

ただ“部長が座るべき席”、というだけでなんだか偉くなった気分がする。気のせいだとは思うが。


「部長、何しているんでしょうね」


「さぁ…? ただ帰ったわけではないのでここに帰ってくるとは思いますが…」


センパイはそう言いながらバッグからノートと参考書を取り出した。


あ。


そうだ。もう12月になってしまう。年を越して学年が上がればセンパイは受験生。こうしたスキマ時間が惜しくなる学年になってしまう。


「センパイ」


「なんでしょうか」


サラサラと問題を解いていたノートから顔をパッ、とあげて私の方を見てくれるセンパイ。


「センパイは受験生になりますよね」


「えぇ。留年しなければ、ですが」


「センパイにはその心配はないですよ」


「ふふ、そうですかね」


「それで…」


「はい」


私は俯いた。


───「受験生になっても今と同じようにしてくれますか?」


なんて、ワガママにも程がある。センパイと同じ高校に行きたくて受験勉強を頑張った私だから言える。


受験勉強というのはとても大変なんだ。だから、私がセンパイの足枷にはなりたくない。


「受験勉強、頑張ってくださいね!」


私は顔を上げ、そう言って笑った。


「………………」


するとセンパイが急に私の両頬を掴んで横にむにーっ、と伸ばした。


「いっへへへへ! はひふるんへふか!」

(訳:いってててて! 何するんですか!)


「いえ。結城さんが嘘を付いているように思えたので」


そう言うとセンパイは「すみません」と言い、優しく伸ばしていた頬を離す。そこまで痛くなかったのだが反射的に「痛い」と言ってしまった事は内緒にしておこう。


「…………私、嘘ついてませんよ」


「でも言おうとしていた事は違ったでしょう?」


「うっ」


やはりセンパイにはなんでもお見通しのようだ。



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